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ここだけの秘密だが、真島ミツルはエスパーである。
レベルは通常2、だが検査の時々で2になったり3になったりするので、実はよく分からない。 腕時計型のリミッターをつけていればほとんど能力は表に出ないし、特に必要だとも思わなかった。 海外赴任をしている父親の財力で特性の強力なリミッターを作ってもらったから、いちいち物や人に触れて何かを感じることもない。 彼はサイコメトラーだった。 だから、ふだん使おうともしない、ともすれば自分にそんな能力があることを忘れかけもするそれを使ってみようと思ったのは非常にレアなことである。 のぞいてみたい。 この、あやしい転校生の心の中を。 そのためには接触しても不自然にならない状況をつくる必要がある。 幸運なことに、兵部京介の席はとなりだ。軽く肩をぶつけたりすることだってあるだろう。 そうだ、自然に、自然に。 だが意識すればするほど、ぎこちなくなってしまい思うように行かなかった。 「うーん。面倒くさい」 自習中なのをいいことに、早々に課題のプリントを投げ出し、ぼんやり窓の外を眺める。 中庭を挟んだ向こう側には中等部の校舎があり、資料室や実験室などが並んでいる。 ふと中庭を見下ろすと、三、四人の女子生徒がこちらを見上げているところだった。 「?」 なんだろう、と思っていると、そのうちのひとりがおもむろに両手を振り出す。 真島は焦って顔を引っ込めたが、ごつんと頭が何かに当たってはっとした。 「あ、ごめん」 「・・・おまえ、兵部」 何故か兵部が真島のすぐ横に立っていて、窓から下へ手を振っている。 「なに、知り合い?」 「うん、妹」 「え、どれ」 「あのポニーテールの」 ふうん、と真島はもう一度見下ろした。 確かに、黄金色の髪を高い位置でひとつに結んだ少女がぴょんぴょん跳ねながら何かを叫んでいる。 どうやら、やっほー、という、典型的かつ大して意味のない台詞らしい。 やがて彼女は一緒にいた友人らしき少女に促されるようにして、行ってしまった。 兵部も手をおろしてくすくす笑いながらそれを見送っている。 机に頬杖をついたまま、真島は兵部を見上げた。 顎のラインから額まで人形のように整っている。嫌味なまでに、とでも言うのだろうか。 だがどうしても吸い寄せられるのはその目だ。 何かを見つめているようでいて、何も映っていないような不思議な色合いを見せている。 何故だかぞっと背筋が寒くなるような気がして真島は目をそらした。 そうだ、この距離なら触れても不自然でもないだろう。 「妹いるんだ」 「うん」 「妹も海外にいたのか?」 「そうだよ」 視線をこちらへ向けて、兵部は答えた。 手を伸ばせばすぐのところに彼はいる。 そっと、机に触れている袖をつかもうとしたところで、兵部がそっと腰を屈めた。 ざわざわとうるさかったはずの教室が一瞬静かになったような気がする。 だが顔を上げると何も変わっていない。ただ、自分と兵部の周囲だけが別の世界に切り取られたかのように見えた。 もちろんそれはただの気のせいなのだろうけれど。 「な、なんだよ」 心持ち身を引いて睨みつける。 兵部は真島の目をじっと見つめながら、聞き取れるぎりぎりの小さな声で、言った。 「君もエスパーなんだ?同じだね」 「・・・・・・え?」 耳を疑った。 兵部がエスパー? 自分と同じ。 彼に感じた不自然さはそのせいだったのだろうか。 まじかにある、深すぎる瞳には自分は映ってはいない。 真島はごくりと唾を飲み込んで、兵部を見つめた。彼は、笑っている。 「びっくりした?でも他の人には内緒だよ」 「う、うん」 ほら、と兵部は制服の袖から腕時計をちらりと見せた。確かに、よく見ればリミッターだと分かる。 だが自分のものと同じように精巧に作られていて、一見それとは気づかない。 「あ、あのさ、兵部」 おまえはどんな能力を持っているんだ、と、話の流れ的に尋ねようとしたところでタイミング良くチャイムが鳴った。 それまでも騒がしかった教室がさらにうるさくなる。 席を立って廊下へ出て行くクラスメートたちを見送りながら、兵部は動かない。 こちらの会話の続きを待っているのだろうか。 真島は少しだけ躊躇して、言った。 「購買行く?食堂?案内してやるよ」 なぜそんな言葉が口をついて出てきたのか、本人にも分からなかった。 興味があったのだ。 この、あやしい転校生に。 ・・・そういうわけだから、協力しなさいよ。 ふんぞり返って偉そうに言う少女に、三人は呆れて、互いの顔を見合わせた。 「あのさあ」 代表して薫が口を開く。 「それはいいけど何で京介もいるわけ?」 「犯罪組織のボスが自ら、わざわざ学生に扮装して潜入なんて暇なのね」 「ていうか思いっきし怪しまれとるやん。さっきの隣にいた人の顔見た?」 ぽかーんてしてたよね、と薫と紫穂が同時にうなずく。 「だって少佐の命令なんだから仕方ないじゃない。真木さんたちも呆れてたけど」 そりゃそうだ。 「でも澪、あんた大丈夫なの?そりゃあここの学校私立って言ってもそんなにレベル高いわけじゃないけど、授業とかついてこれる?」 以前小学校をパンドラが乗っ取ったときのように、一日限りというわけではないのだ。 「平気よ!それに紅葉が手伝ってくれるもん。真木さんも宿題見てくれるっていうし何とかなるわよ」 「ふうん」 一応、子供の教育はきちんと面倒を見ているらしい。 犯罪集団のくせに暢気だな、と三人は思った。 PR |
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私立六條学院。
中等部と高等部が一緒になった、今となっては珍しくもない中高一貫の私立校である。 そこの、高等部2学年のとあるクラスに、ひとりの転校生がやってくると聞いたのは始業式が終わって数日してからのことだった。 どうせ転入してくるのなら始業式の日にくればいいのに、わざわざ遅れてくるのには何か意味があるのだろうか。 教員をはじめ話を聞いた生徒たちも一様に首を傾げたが、それよりもどんな生徒がやってくるのか、次第に興味はそちらへと移っていった。 男子にしてみればもちろん可愛い女の子がいいし、女子にしてみればイケメンがいい。 無論担任教師にしてみれば、問題の起こさない優等生を希望したいところであったが。 「今日からこのクラスに転入してきました。兵部京介です」 現れたのは、完璧なまでに整った顔と、ひどく目立つ銀髪の、ちょっぴり目つきの悪い男だった。 真島ミツルは考える。 やつは普通じゃない。 一番後ろの窓側、というある意味お約束な席で頬杖をつきながら、彼は冷めた目で転校生を観察していた。 やけに落ち着いた雰囲気の兵部京介は、空いている真島の左隣に座ってにこにこと笑みを浮かべている。 椅子に腰掛ける際にちらりとこちらを見て、よろしく、と挨拶した声は艶やかで、なぜか耳に残った。 男の声にいちいち刺激されてたまるか、と真島は無視する。 声をかけてくるかと思われたが、兵部は彼の右に座る女生徒に教科書を見せてもらっていた。 前列の男子や近くの女子がちらちらと振り返りながらこそこそ話している。 「ねえ、兵部くんはどこからきたの?」 「何で始業式に転校してこなかったんだ?」 当然と言えば当然なその質問に、兵部はいちいち質問するクラスメートの顔を確認しながら、丁寧に答えていく。 「ずっと外国にいたんだ。こっちの学校に通いたかったからホテル暮らしを決めたんだよ。手続きの関係で遅くなった」 そんな、とりとめのない雑談に、教壇で新しい学期の授業編成などを説明する教師も苦笑しつつ黙認している。 「ねえ、聞いてもいい?」 ふと、髪の長い女生徒が前方から大げさなほど体を捻って、首を傾げた。 他人から見て可愛いと思われるのを分かってやっている、そんな仕草である。 ああ、気持ち悪いな、と真島は思った。 「その髪、染めているの?」 真島はぎょっとした。 彼が見る限り、兵部の銀色の髪は染めてできるほど人工的ではないように思える。 何故だか聞いてはいけないような、けれどおそらくクラスの全員が奇異に思っているだろうそれを、彼女はいとも平然と聞いてしまったのだ。 「ああこれ」 兵部は指で髪をつまみあげながら、小さく笑みを浮かべた。 「昔殺されそうになってね。そのときのショックで真っ白になっちゃった」 「えー。なにそれ。マジ?」 兵部くんっておもしろいんだね。 女生徒の笑い声が響いて、ようやく教師が声をかけた。 真島は笑えなかった。 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 似合うかい?と偉そうに仁王立ちする上司に、真木以下幹部三人組はため息をついた。 いつもの学ランを脱ぎ捨て、着用しているのは珍しくブレザーである。 学ラン姿に見慣れた今となっては非常に違和感があるが、顔が整っている分何を着ても似合う気がするし、逆に似合わない気もする。 要するに微妙なのだ。 「なんだよその反応」 むっとしたようにやや声を低くした兵部に慌てて三人は首を振る。 「いえ、似合ってます似合ってます。そうではなくて、どうしたんですかその格好」 「どうしたんですかじゃないよ。高校生やるんだよ」 「はぁ」 そうですか、と投げやりな返事をしてからはたと動きを止めた。 瞬きを繰り返しながら見つめる先には、にやにや笑いながらこちらの反応をうかがう性悪な悪魔の姿がある。 ひゅん、と空気が振動したかと思うと、宙に突然一枚の紙切れが出現して、兵部がそれを摘み上げた。 「私立六條学院高等部。いやーさすがに中学生をやるにはいささか無理があると思ったんでね。見た目相応にしておいた」 「そりゃ嫌ですよそんな中学生」 口を挟む葉の言葉をさらりと聞き流して、兵部はひらひらと紙切れを揺らして見せた。 「転入手続きは済ませてきた。それと万が一他人を招待することになっても大丈夫なようにホテルも一室確保。しばらくそこから通学するからよろしく」 「ここ数日こそこそしてると思ったら、そんなことしてたのね」 呆れたように紅葉は腕を組んで、肩をすくめる。 「転入って、もしかしてチルドレンの監視ですか」 「それだったらわざわざ少佐が潜入することないじゃん。しかも生徒の振りまでしてさ」 半ば、いやほとんど遊びでやってるんだろう、と言外に言い募る葉に微笑んで見せてから、転入届を真木の手の中にテレポートさせた。 「実は予知能力者からの報告で、チルドレンの在籍している学校に正体不明のエスパーが潜入していることを突き止めた。詳細は不明、けど予知にひっかかるくらいだから何か起こりそうなんだよ。だからちょっと様子を探ってくる」 「それなら今までどおりの監視体制を強化すれば」 「だーめ。相手に気づかれちゃったらつまんないだろ」 それに、と兵部は無邪気な笑顔をつくって、 「チルドレンたちの反応も見てみたいし、他にもお楽しみがあるからね」 やっぱり、おもしろがってるだけじゃん。 厄介なことになった、と真木はしくしく痛む胃をそっと押さえた。 「保護者の欄にコレミツの名前があるんですけど」 「似てねえ親子!!」 「まさか母親役に私を当てる気じゃないわよね、少佐」 げらげら笑う葉を押しのけ、真木の持つ書類を紅葉がのぞきこむ。 「ううん、紅葉は姉役。妹の面倒を頼むよ」 「「「妹?」」」 まだ配役が残っていたのか、と三人が声を上げるのと、ドアをノックする音がするのはほぼ同時だった。 「きたね。入っていいよ」 兵部の言葉に、ドアを開けてきょろきょろしながら現れたのは澪である。 「澪?え、もしかして」 「うん、そういうこと」 彼女には妹役として、チルドレンたちと同じクラスに潜入してもらうから。 そう言って、澪の狐の尻尾のような髪の毛をそっと撫でた。 「に、任務だから、仕方ないけどチルドレンたちとお友達ごっこやってあげるわ!」 「・・・嬉しそうね」 突っ込む紅葉に、澪はかっと頬を赤らめてそっぽ向く。 「澪の役目はチルドレンたちと行動を常にともにして周囲を警戒すること。紅葉はアジトと、ホテルの方を行き来しつつ僕たちの面倒を見ながら連絡係」 「さりげなく自分の世話を焼けって言いましたね今」 「あと真木は」 「え、自分もですか」 何役を押し付けられるのだろう。 どぎまぎする右腕を、たっぷり焦らしてから、兵部は厳かに命令した。 「今流行りの執事役」 「・・・・し、執事ですか」 メェェェェ。真木の脳内で盛大に白いもこもこの何かが数百匹鳴きだした。 「ぶわっはっはっはっ。いいじゃんかっこいいじゃん真木さん。燕尾服きて「お帰りなさいませ坊ちゃん」て言ってよ」 爆笑しながら、俺は俺は?と葉が身を乗り出す。 兵部は葉のもしゃもしゃの頭をぐりぐりかきまわしながら、てへ、と笑った。 「考えてなかった」 えーと、幼馴染みの悪がきって設定にでもしておく? 一瞬でうな垂れる葉をからかうように、兵部はさらに追い討ちをかけるのだった。 |
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