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私立六條学院。
中等部と高等部が一緒になった、今となっては珍しくもない中高一貫の私立校である。 そこの、高等部2学年のとあるクラスに、ひとりの転校生がやってくると聞いたのは始業式が終わって数日してからのことだった。 どうせ転入してくるのなら始業式の日にくればいいのに、わざわざ遅れてくるのには何か意味があるのだろうか。 教員をはじめ話を聞いた生徒たちも一様に首を傾げたが、それよりもどんな生徒がやってくるのか、次第に興味はそちらへと移っていった。 男子にしてみればもちろん可愛い女の子がいいし、女子にしてみればイケメンがいい。 無論担任教師にしてみれば、問題の起こさない優等生を希望したいところであったが。 「今日からこのクラスに転入してきました。兵部京介です」 現れたのは、完璧なまでに整った顔と、ひどく目立つ銀髪の、ちょっぴり目つきの悪い男だった。 真島ミツルは考える。 やつは普通じゃない。 一番後ろの窓側、というある意味お約束な席で頬杖をつきながら、彼は冷めた目で転校生を観察していた。 やけに落ち着いた雰囲気の兵部京介は、空いている真島の左隣に座ってにこにこと笑みを浮かべている。 椅子に腰掛ける際にちらりとこちらを見て、よろしく、と挨拶した声は艶やかで、なぜか耳に残った。 男の声にいちいち刺激されてたまるか、と真島は無視する。 声をかけてくるかと思われたが、兵部は彼の右に座る女生徒に教科書を見せてもらっていた。 前列の男子や近くの女子がちらちらと振り返りながらこそこそ話している。 「ねえ、兵部くんはどこからきたの?」 「何で始業式に転校してこなかったんだ?」 当然と言えば当然なその質問に、兵部はいちいち質問するクラスメートの顔を確認しながら、丁寧に答えていく。 「ずっと外国にいたんだ。こっちの学校に通いたかったからホテル暮らしを決めたんだよ。手続きの関係で遅くなった」 そんな、とりとめのない雑談に、教壇で新しい学期の授業編成などを説明する教師も苦笑しつつ黙認している。 「ねえ、聞いてもいい?」 ふと、髪の長い女生徒が前方から大げさなほど体を捻って、首を傾げた。 他人から見て可愛いと思われるのを分かってやっている、そんな仕草である。 ああ、気持ち悪いな、と真島は思った。 「その髪、染めているの?」 真島はぎょっとした。 彼が見る限り、兵部の銀色の髪は染めてできるほど人工的ではないように思える。 何故だか聞いてはいけないような、けれどおそらくクラスの全員が奇異に思っているだろうそれを、彼女はいとも平然と聞いてしまったのだ。 「ああこれ」 兵部は指で髪をつまみあげながら、小さく笑みを浮かべた。 「昔殺されそうになってね。そのときのショックで真っ白になっちゃった」 「えー。なにそれ。マジ?」 兵部くんっておもしろいんだね。 女生徒の笑い声が響いて、ようやく教師が声をかけた。 真島は笑えなかった。 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 似合うかい?と偉そうに仁王立ちする上司に、真木以下幹部三人組はため息をついた。 いつもの学ランを脱ぎ捨て、着用しているのは珍しくブレザーである。 学ラン姿に見慣れた今となっては非常に違和感があるが、顔が整っている分何を着ても似合う気がするし、逆に似合わない気もする。 要するに微妙なのだ。 「なんだよその反応」 むっとしたようにやや声を低くした兵部に慌てて三人は首を振る。 「いえ、似合ってます似合ってます。そうではなくて、どうしたんですかその格好」 「どうしたんですかじゃないよ。高校生やるんだよ」 「はぁ」 そうですか、と投げやりな返事をしてからはたと動きを止めた。 瞬きを繰り返しながら見つめる先には、にやにや笑いながらこちらの反応をうかがう性悪な悪魔の姿がある。 ひゅん、と空気が振動したかと思うと、宙に突然一枚の紙切れが出現して、兵部がそれを摘み上げた。 「私立六條学院高等部。いやーさすがに中学生をやるにはいささか無理があると思ったんでね。見た目相応にしておいた」 「そりゃ嫌ですよそんな中学生」 口を挟む葉の言葉をさらりと聞き流して、兵部はひらひらと紙切れを揺らして見せた。 「転入手続きは済ませてきた。それと万が一他人を招待することになっても大丈夫なようにホテルも一室確保。しばらくそこから通学するからよろしく」 「ここ数日こそこそしてると思ったら、そんなことしてたのね」 呆れたように紅葉は腕を組んで、肩をすくめる。 「転入って、もしかしてチルドレンの監視ですか」 「それだったらわざわざ少佐が潜入することないじゃん。しかも生徒の振りまでしてさ」 半ば、いやほとんど遊びでやってるんだろう、と言外に言い募る葉に微笑んで見せてから、転入届を真木の手の中にテレポートさせた。 「実は予知能力者からの報告で、チルドレンの在籍している学校に正体不明のエスパーが潜入していることを突き止めた。詳細は不明、けど予知にひっかかるくらいだから何か起こりそうなんだよ。だからちょっと様子を探ってくる」 「それなら今までどおりの監視体制を強化すれば」 「だーめ。相手に気づかれちゃったらつまんないだろ」 それに、と兵部は無邪気な笑顔をつくって、 「チルドレンたちの反応も見てみたいし、他にもお楽しみがあるからね」 やっぱり、おもしろがってるだけじゃん。 厄介なことになった、と真木はしくしく痛む胃をそっと押さえた。 「保護者の欄にコレミツの名前があるんですけど」 「似てねえ親子!!」 「まさか母親役に私を当てる気じゃないわよね、少佐」 げらげら笑う葉を押しのけ、真木の持つ書類を紅葉がのぞきこむ。 「ううん、紅葉は姉役。妹の面倒を頼むよ」 「「「妹?」」」 まだ配役が残っていたのか、と三人が声を上げるのと、ドアをノックする音がするのはほぼ同時だった。 「きたね。入っていいよ」 兵部の言葉に、ドアを開けてきょろきょろしながら現れたのは澪である。 「澪?え、もしかして」 「うん、そういうこと」 彼女には妹役として、チルドレンたちと同じクラスに潜入してもらうから。 そう言って、澪の狐の尻尾のような髪の毛をそっと撫でた。 「に、任務だから、仕方ないけどチルドレンたちとお友達ごっこやってあげるわ!」 「・・・嬉しそうね」 突っ込む紅葉に、澪はかっと頬を赤らめてそっぽ向く。 「澪の役目はチルドレンたちと行動を常にともにして周囲を警戒すること。紅葉はアジトと、ホテルの方を行き来しつつ僕たちの面倒を見ながら連絡係」 「さりげなく自分の世話を焼けって言いましたね今」 「あと真木は」 「え、自分もですか」 何役を押し付けられるのだろう。 どぎまぎする右腕を、たっぷり焦らしてから、兵部は厳かに命令した。 「今流行りの執事役」 「・・・・し、執事ですか」 メェェェェ。真木の脳内で盛大に白いもこもこの何かが数百匹鳴きだした。 「ぶわっはっはっはっ。いいじゃんかっこいいじゃん真木さん。燕尾服きて「お帰りなさいませ坊ちゃん」て言ってよ」 爆笑しながら、俺は俺は?と葉が身を乗り出す。 兵部は葉のもしゃもしゃの頭をぐりぐりかきまわしながら、てへ、と笑った。 「考えてなかった」 えーと、幼馴染みの悪がきって設定にでもしておく? 一瞬でうな垂れる葉をからかうように、兵部はさらに追い討ちをかけるのだった。 PR |
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