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自分もしばらくこちらで生活しますから、とおそるおそる告げた真木に対して、返された言葉は「ふーん」だった。
ふーん。 生返事をした兵部は、だらだらとソファに寝ころんではテレビのチャンネルをせわしなく変えている。 映像が一瞬にして次々と切り替えられ、内容を吟味しているわけではないのが分かる。 いい加減うるさくなったのか、ニュース番組に変えたところで兵部はリモコンをぽいと放り出した。 意外と強く投げられたかわいそうなそれを、床に激突する寸前真木が伸ばした炭素の髪で受け止めてテーブルの上に置く。 「少佐。よろしいですか」 「何が?ここに住むんだろ。いいんじゃないか、あっちには葉がいるし、紅葉と交代ってことで」 「いえ、それもですが。今日六條学院でバベルの眼鏡と接触しました。事後報告になって申し訳ありません」 ようやく兵部が体を起こして、こちらを振り返った。 促すような視線に、真木は近づいて、兵部の隣に腰をおろす。 「七か月前、バベルが関与したひとつの事件があります。小規模なテロ組織同士による抗争が発生した際、一方にエスパーの集団が情報提供を行い、勝利しました。しかしその後エスパー集団の実力を恐れたその組織が彼らを襲撃、戦闘力では劣るエスパーチームがバベルに助けを求めてふたつのテロ組織は逮捕されました」 「ノーマルに襲撃されて勝てずにバベルに助けを求めた?お話にならないね。馬鹿馬鹿しい」 鼻で笑って、背もたれに体を預けると大あくびをした。 興味ない、という顔をする兵部に、だが真木は辛抱強く続ける。 「テロ組織は小規模ながら戦闘経験が豊富な人材がそろっていました。一方情報提供を持ちかけたエスパーたちは年が若く、おそらくゲーム感覚で首を突っ込んだのでしょう。確かに思慮も浅く計画性や危機感も皆無ですが、その情報収集能力は本物だと思われます。きちんと能力の使い方や戦い方を教えれば役に立つのではないでしょうか。それに一般の学生という立場は情報源として貴重かと思いますが」 もしここで兵部がノー、と言うなら、真木としてもこれ以上関わることはできない。 真木としては、そのエスパーたちを何もパンドラに引き入れようとまでは考えていない。 こちらの正体を適当にごまかしておいて、必要なときに情報交換をし合うビジネスパートナーになれないかと思っている。 一般社会に基盤を置いて生活するエスパーは、パンドラにとってそれなりに貴重な情報源でもあった。 彼らは真木たちとは違って普通にノーマルと混じり暮らしている。同朋を騙すようで心苦しいが、実際に手を汚すのは自分たちであって彼らではない。 彼らにとっても良い小遣い稼ぎになるだろう。また秘密裏に彼らを保護することもできる。 「それで、何で皆本くんが関係してくるんだ?」 どうやら会話を続けてくれるらしい。 ほっとしながら、真木は背筋を伸ばした。 「その、七か月前の事件に関与したとされるエスパー集団が、六條学院高等部に在籍しているらしいのです。入手した資料はバベルの機密情報ですから間違いはありません。この資料については、今回の学院での予知とは別件で俺が個人的に調べたものです。ただ記載されていた生徒の名前は、おそらくリーダー格だったのでしょうがひとり分のみで、その個人情報に学院の名前がありました。皆本が潜入しているのも、この事件を洗い直しているのだろうと見当をつけましたので彼と接触しました。勝手なことをして申し訳ありません」 ぺこりと頭を下げて、反応を待つ。 しばらく沈黙が降りた。 そろそろと顔を上げると、兵部は眉間に皺を寄せて真木の腹のあたりをじっと睨んでいる。 「あの、少佐?」 「……うん、ちょっと待って」 やけに真面目な声で制して、きっちり一分間考え込んだ後、兵部が忌々しげに舌打ちした。 「どうも変だな。何かがおかしい」 「どこが、ですか?」 何がそんなに引っかかっているのか、真木には分からなかった。 兵部は七か月前の事件については知らなかったようだ。 「その資料、見せてよ」 「はい」 立ち上がって、急いで資料をPCからプリントアウトすると兵部に手渡した。 バベルにハッキングをかけて入手したそれは、ガードが固くほんの一部だけだ。 関係しているそのエスパーの名前も、さっき真木が言ったようにひとり分しか載っていない。 おそらく他のページに続いているのだろうが、すぐに切断されアクセスコードを変更されたため全体像はつかめない。それでも六條学院の名前をすぐに見つけて名前をピックアップできたのは評価に値するだろう。 「……ああ、なるほど」 ざっと資料に目を走らせて、兵部は唸った。 「少佐?」 「うん、何となく掴めてきた。でもやっぱりどこかずれがあるな。少し整理する必要がある」 「どういうことでしょうか」 「今日学校の先輩に人探しを頼まれてね。それが僕のクラスメートの親友でもあるから、引き受けたんだけど」 「はあ」 それが何か、と尋ねる真木に、兵部はちらりと目を上げた。 「僕はその、情報を扱うエスパー集団とやらのメンバーを知っているかもしれないぜ」 PR |
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