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超能力を持たないノーマルが、能力を持つエスパーを恐れるように。
自分よりもはるかに力の強い同朋を恐れることもある。 それは、自分と同じ力を持つにも関わらず敵わないことを知る妬みだ。 いっそ自分にそのような能力などなければよかったのだ。 そうすれば、ただ羨ましい、おそろしい、それだけで済んだだろうに。 高みへと望む心は一歩踏み外せばどす黒い闇へと変貌する。 (ああ、なんて愚かしい) 不本意極まりない、という表情の真木をちらりと見て、皆本は気づかれないようにそっと溜息をついた。 好きで一緒に行動しているわけではない。ただ、同じ事件を追っていて、かつ彼らに自分たちへの敵意がないのならば情報交換をしてもいいと思っただけだ。 敵と手を組むのは非常に不愉快なことだが、先に首を突っ込んだのは自分の方である。 面白半分とまでは言わないが、任務を与えられたわけでもないのに、過去の事件の資料を整理しているうちに薫たちの通う学校へ足を向けてしまった自分が悪い。 ここまできて、パンドラがでしゃばってきたからじゃあこちらは手を引きます、とは言えないだろう。 「着いたぞ」 機嫌がいいのか悪いのか、無愛想な声に引き戻されて皆本は顔を上げた。 特殊刑務所。一般の刑務所とは少し違う、エスパー絡みの犯罪者たちを収容している場所である。 収容されているものたちはエスパーではないため、イーストエデンには入れられない。だが、エスパーが関与する事件で殺人などを行ったものたちは収容された後も外部とのエスパーと接触することが一般用では簡単にできてしまうため、こうして隔離されている。 「許可はとってあるって言ったけど、どうやって」 眼鏡を指で押し上げながら尋ねる皆本に、真木はわずかに目を細めた。 「愚問だな。我々を何だと思っているんだ」 「はいはいそうですね」 て、犯罪じゃねえか!と突っ込む気力もない。 彼らにとって公的書類の偽造などお手の物だろう。 パンドラメンバーは日本をはじめとする世界各地にアジトを持っているが、マンションひとつ借りるだけでも手続きを要するのだ。 入口を見張る警備に睨まれながらもすんなりと通される。 面会用の部屋はこじんまりとしていて息苦しかった。 ふたり分のパイプ椅子が窮屈そうに置かれており、その向こうには壁と、透明なガラスで仕切られた丸い窓。 ドラマでよく見るが皆本がこういう場所へ来るのは初めてだった。 どうしたものかと隣りを見るが、やはり真木は眉ひとつ動かさずじっとしている。さすが兵部の右腕、小さなことにいちいち動揺したりはしないのだろう。 この無愛想加減はどうにかしてもらいたいものだが。 無言のまましばらく待っていると、やがて向こう側の部屋の扉がゆっくりと開いた。看守に連れられて囚人服の男がひとり入ってくる。目つきは悪く、痩せてはいるがよく鍛えられた体をしている。しばらく日に当たっていないのか顔色が白く、幽霊のようだった。 看守に促され、椅子に座る。 「……きみが七か月前、エスパーグループと接触したテロリストのひとりか」 男は予想外に若かった。年は二十代前半から中盤と言ったところだろうか。ごく普通の、どこにもいそうな若者である。 「聞きたいこととは何だ。もう全部バベルに話した」 「分かっている。ただ、君たちが接触したエスパーの中に彼らがいたかどうか確認しにきたんだ」 言いながら、皆本は胸ポケットから一枚の写真を取り出した。映っているのは生徒会のメンバーだ。 学校のホームページに掲載されているもので、今学期が始まってすぐ撮られたものである。 中央に生徒会長である男子生徒、そのとなりに長い髪の美少女とも言える副会長。そして彼らを挟む形でメンバーが立っており、端には皆本がつい最近出会った兵部のクラスメートの姿もあった。 男はしばらく写真を眺めていたが、やがてゆっくりと首を振った。 「いない」 「……え?」 「なんだと?」 皆本と真木の声が合わさる。 ふたりが驚愕したことに驚いたのか、男は眉間をぐっと寄せて、うなずいた。 「だから、この中に俺に知っているやつはいない、と言った。そりゃ若いやつもいたがほとんどは俺と同年代かそれ以上のやつらだったしな。これは高校生だろう?しかも真面目そうじゃねえか」 そんな彼らが犯罪に手を貸すわけないだろう、と。 男はうっすらと笑った。 「おいどうなっている。バベルの資料には何も書かれていなかったのか」 苛立ちを隠せない様子で真木がやや声を荒げた。 手に持っているのはハッキングして入手したバベルの機密情報書類だ。堂々と皆本に見せるあたりが、悪役としての地位を見せつけているようだった。 そんなことも知らないのか、とも言いたげな真木の迫力に押されながら、皆本は彼の手から半ば強引に書類を奪う。 しばらく無言で読みかえしながら、ふと顔を上げた。 「真木。ここに書かれている、この学校の生徒についてなんだが」 「だから、生徒会のメンバーだろう」 「待ってくれ。この間兵部に、あいつのクラスの名簿を見せたんだ。そしたら『ひとり知らない名前がある』て言っていた」 皆本は当然、在籍している生徒の名前や顔を覚えているわけではない。だから、名簿に名前のある生徒が『いない』という事実にはまるで気付かなかった。 それを兵部は指摘しなかったか? 「……では、少佐が人探しを頼まれたというのは」 「人探し?」 この、名前のみを残して姿を消した生徒が、兵部が学校の先輩とやらに依頼された、クラスメートの親友のことではないだろうか。 また兵部は『情報を扱うエスパー集団のメンバーを知っているかもしれない』とも言っていた。 それが生徒会のことだと真木は勝手に考えていたが、もしかすると消えた生徒個人のことを言っていたのかもしれない。 ひとりごとのように呟きながら整理している真木の、せりふの端々を拾って考えながら、皆本はあ、と声を上げた。 「……もしかして、<生徒会>と七か月前の事件に関わったグループっていうのは別ものなのか?」 「おそらく、この消えた生徒のみがどちらにも重複して在籍していたのだろう」 消えた男子生徒がふたつの組織にまたがっていただけで、本来生徒会の存在と七か月前の事件は切り離して考えるべきだったのだ。 真木は舌打ちした。 まったく無駄なことをしてしまった。 情報収集力が欲しいだけなら、このままこの件から手を引いて生徒会メンバーと接触するだけでいい。 だが、兵部本人がどちらとも関わっているため、彼の片腕としては消えた生徒の足取りも追わなくてはならないだろう。 真木は無言で皆本から書類を奪い返すと、足早に去っていく。 取り残された皆本は、なんだか振り回されるだけ振り回されてどっと疲れた、と肩を落とした。 このとき、ふたりがもう少しいつもの冷静さを取り戻していたらすぐに気付いたかもしれない。 なぜバベルが扱った事件なのに、行方不明者などがいるのか。そしてその詳細が記載されていないのか。 皆本には機密情報を入手する権限はなく、真木もそこまで完璧にハッキングできなかった。 仕方ないと言えば仕方ないのだが。 PR |
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