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体育の授業は出ない、と言っていた兵部はてっきり保健室にでもいるのだろうと思っていたのだったが。
「おまえ何やってんの」 準備運動と称して教師の言うとおり適当にコンビを組みキャッチボールをしていた真島は、相手がコントロールをはずしたボールを追いかけてグラウンドの隅へ走った。 その金網の前。 しゃがみこんでぶちぶち雑草をちぎっている、銀髪の変なやつ。 自分と同じ上下のジャージを着た姿になんだか違和感がある。 (顔がいいやつがダサい格好するとさらにダサさが際立つよな) イケメンは何を着ても許されるが、かわいそうなのは着られる服の方だろう。 だが真島が目を離せなくなった原因は、単に彼が珍しい格好をしているからではなかった。 中途半端に閉められた上着からのぞく白い体操着と、くっきりと浮き出た鎖骨のコントラストがやけになまめかしくて変な気分になりそうだ。 日焼けしていない白い肌はつるりとなめらかそうで、まるでミルク色の入浴剤をかぶったようだと思った。 (て何考えてるんだ俺) 同じ男のクラスメートに抱く印象ではないだろう。 ここしばらくの雨がようやく上がり、じりじりと太陽が地面を焼いていく。 ああ、きっとこの暑さのせいだ。 じっと彼を見つめていると、ようやく兵部が顔を上げて、眩しそうに目を細めた。 「君こそ何やってんの」 遠くで、コンビを組んだクラスメートが大きな声を上げて手を振っている。 真島は転がっているボールをつかんで思い切り投げた。 汚れたボールが飛んでいく。 一瞬太陽の光に紛れて姿が見えなくなる。 一呼吸のうちにボールは相手の手の中に吸い込まれていった。 「行かなくていいのかい?」 兵部はしゃがみこんだまま、不思議そうに尋ねた。 「ていうか、こんなところで何やってんだよ。見学するならもっと近くにいればいいのに」 これでは何だかいじめられているようで情けない、と肩をすくめて手を伸ばす。 「ほら」 「なに?」 「手」 きょとんとする兵部の目の前に突き出してぶっきらぼうに手を振ると、ようやく兵部は合点が言ったようにうなずいて手をとり、立ち上がった。 ひんやりと冷たい。まるで血が通っていない人形のようでぞっとする。 「ここが日陰になっていたから」 「あっちにも木陰があるだろ。それか保健室」 「つまんないんだよ」 兵部は、面倒くさいという理由で診断書を偽造した、ということを真島は当然知らない。 何やら勝手に想像して勝手に哀れんだのか、真島は僅かに眉尻を下げて困った顔をした。 疑われるよりはずっと安全だ、と兵部は心の中でほくそえむ。 「キャッチボールもだめか?走らなくていいぜ」 「眩しいからきっと捕れないんじゃないかな」 「太陽背中にしてればいいだろ」 「太陽を背負うんだ。昔そんなドラマあったよね」 「知らね」 そっけなく舌を出してそう返すと、兵部はしまった、という顔をして苦笑した。 「ところでさ」 「うん」 「裏門のところにずっと止まってるあの黒塗りの外車、あやしくね?」 ほら、と顎をしゃくって指し示すと、兵部は何やら微妙な表情をしてすぐに目をそらした。 なんだよ、と肘でこづいてもう一度裏門を見やる。 次の瞬間車のドアが開き、非常にあやしい男が降り立った。 どこがあやしいと言われれば、「すべてが」としか答えようがないほどにあやしい。 この暑い中ダークスーツを着込み、うねる髪は背中を覆い隠すほどに長く、しかも髭まで生えている。 年は二十代から三十代といったところだろうか。 長身の男は腕時計をちらりと見て、車に寄りかかり腕を組んだ。 そのまま動かなくなる。誰かを待っているのだろうか。 「なあ、あいつどう見てもカタギじゃねえよな。俺ちょっとセンセーに言ってくるわ」 「え、いやちょっとまっ、」 慌てるように兵部が手を伸ばしたが、真島は俊敏な動作で走っていってしまった。 「ああ、もうあのバカ」 こんな時間に迎えに来たってすぐ帰れるわけないだろう、と呟いて、そのまま金網に背中を預けると再びしゃがみこんだ。 そのうち教師連中がやってきてあのどうみてもカタギに見えないあやしい男は追い払われるだろう。 下手すれば警察沙汰である。 兵部は嘆息して、ぶちぶちと雑草を抜く作業に戻った。 とりあえず、身内だとばれないように知らん顔していよう。 PR |
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