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ゴォォォォ、と頭上を飛行機が飛んでいく。プロペラ機だ。泥で汚れきった機体には我が国のマークが誇らしげに描かれており、おそらくここから近い場所から離陸したのだろう、やけに低い位置を通過していった。大きな影が彼らを覆い、やがてすぐに強い日の光に照らされて目を細める。耳をふさいでいた薫たちが手を離して、口をぽかんと開けたまま小さくなっていく飛行機の尾をいつまでも見つめていた。
「あれ、なんかあの飛行機古くない?あんなの飛んでるの見たことないよ」 変なの、と呟いて、ねえ、と仲間たちに同意を求める。 同じように唖然としていた皆本たちだったが、とりあえず、VIPルームにいた者たちひとりをのぞいて全員いることを確認して、さてここはどこだと首を傾げた。 広い草原、遠くに見えるのはまぶしいほどに緑あざやかな森。青い空は薄い雲がまばらに散っていて、腹が立つほどにすがすがしい。ただ気になるのは照りつける太陽の光が尋常ではなく暑いということだ。 「えっと……。葵、どこかにテレポートした?」 「んなわけないやん!どこよここ!?」 「だよね。どうなってるの?」 「分からない。賢木、さっき兵部を見て何か変な顔してなかったか?あいつの仕業なのかやっぱり?」 「いや……。若干脈が乱れたように思ったけど、別に何も」 振り返って真木を見たが、彼も怪訝な表情で首を振るだけだ。 「京介は?京介がいない!」 意識の戻らない怪我人の姿が見えないと気づいて、薫たちは慌てだした。すぐさま飛んで行こうとする真木を制止しようとして、皆本が息をのむ。 「ちょっとまて、あれって……」 「なんだ?」 うねる長い髪が戻って行く。 皆本が指をさした方向を全員が見て、目を丸くした。 「子供?こんなところに?」 「いや、こんなところにって言うかここがどこかも分からないんだけどな」 十歳にも満たないくらいの小さな子供が座り込んで一生懸命に何か作業をしていた。遠目に見ても身なりが良くどこかの金持ちの子供のようだ。 「どうする?」 「どうするもなにも。あの子に、ここがどこだか聞くしかないだろう」 「だよなあ」 きっとあの子供からしてみれば、急に現れた不審者に見えるだろうが、幸い女子中学生が三人もいる。逃げられることはないだろう。たぶん。 「ちょっと、君!」 なるべく驚かせないように、少し距離をおいたところから皆本が声をかけると、しゃがみこんでいた子供がぱっと顔を上げた。 「ごめん、ここ東京だよね?どの辺か分かるかな、お兄さんたちちょっと迷子になっちゃって」 間の抜けた質問だ、と自覚しながら皆本がたずねる。 子供はぽかんとした様子で六人の男女を見つめていたが、しばらくして立ち上がった。 「……あれ?」 薫が小さく声を上げる。 「どうしたの薫ちゃん」 「ううん、なんか、見覚えがあるような気がして」 「あの子が?誰だっけ」 黒い髪はきりそろえられ、白い半そでのシャツの上に品の良いベストと、細いリボンネクタイに膝丈のズボンを身につけている。明らかに日本人だが、格好はヨーロッパの貴族じみていて、それが様になっていた。ただせっかく奇麗な服を着ているにも関わらず、頓着せずに地面に座り込んでいたせいかところどころが土で汚れていてもったいない。 「そっちへ行ってもいい?」 もう一度声をかけると、その子供は少し迷ったようにきょろきょろしてから、小さくうなずいた。 「……ねえ、あの子、京介に似てない?」 「え?」 「ほら、ずっと前京介が子供になって学校にきたじゃん。パンドラの人たちが先生になりすまして皆本を子供にしようとしたとき。似てない?」 「……言われてみれば」 一番後方からついてきた真木が小さく呻く。 「まさか、な」 ははは、と乾いた笑いをたてて、皆本は目の前で突っ立っている子供の前で膝をつき、目線を合わせた。 確かに兵部に似ている。 似ているが、あいつはこんなきらきらした目はしてないしなあ、と嫌な想像を頭から振り払った。 「邪魔してごめん。僕は皆本っていうんだ。君は?」 会話をするにはまず自己紹介だろう、と基本的なことから始めてみたが、やっぱりやめておけばよかった、と直後に皆本は後悔した。 子供は小さく首を傾げてから怪しい集団を見回し、もう一度皆本の眼鏡の奥をのぞきこむようにじっと見つめて、言ったのだった。 「兵部京介」 PR |
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