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お姉さんたちはどこからきたの、と純粋無垢な笑顔で聞かれて、薫たちは答えに詰まってしまった。
賢木が薫の脈をとりながら苦笑する。 まさか、未来の君が寝ている病室から、なんて言えないだろう。言っても理解できるわけがない。そもそも自分たちですら、よく分からないのだから。 「えっと……。ずっと遠いところだよ」 「ふうん?」 納得したようではなかったが、あまり突っ込んで聞くのは悪いと思ったのか兵部は大人しくうなずいた。誰が見ても賢い良い子である。 「今日は泊っていくよね?不二子さんが、二階の客室見といてって言ってたから」 「ありがとう。ごめんね、大人の人誰もいないのに」 「いいよ。でもご飯どうしようかな」 「君たちはどうするつもりだったんだ?」 不二子がお手伝いさんを帰してしまったらしいが、それならどうするつもりだったのか。彼女も、そしてこの子供も料理ができるとはとても思えない。 「缶詰くらいあると思うけど……。お客さんに缶詰ってなんだか変だよね」 ごめんなさい、と、彼が悪いわけでもないのにしゅんとうつむいてしまった。 おもわず賢木は手を伸ばして、艶やかな黒髪のてっぺんを撫でる。 (おっと) ほとんど無意識の行動だ。未来の兵部京介と似ても似つかない態度で本当に良かった。考えるとちょっぴり気持ちが悪くなるので、この少年と自分の知る兵部京介とは別人だと思うことにしよう、と心に決める。 「食材があれば作ってあげられるわ」 「本当?」 紫穂の言葉にぱっと笑顔が咲いた。 「うん。皆本さんと先生が」 「て俺らかよ!」 自分たちがやります、という発想には至らないのか。 横目で睨んだが、逆に睨み返されてしまった。 「薫ちゃん、具合はどう?」 「うん、もう平気。ごめんね心配かけて」 「昨日夜更かしするからや」 「夜更かし?」 「気づいてたの?」 いくら同じベッドで三人寝ているからと言って、すぐに寝入ってしまったと思われた葵に気付かれていたとは。 「薫ちゃんごろごろ寝がえりばっかりうってたでしょ」 「ごめん……」 「少佐のこと心配してたのね?」 そっと耳元でささやくと、薫はうなずいて、きょとんとしている少年に笑いかけた。 「ただの寝不足だよ」 「そう……」 ならいいけど、と言いかけたところで不二子の軽やかな足音が近づいてきた。 「京介、二階の部屋は?」 「うん、奇麗に掃除してあったよ。泊ってもらうんだよね?」 「仕方ないでしょ。もう日も暮れるのに迷子を追い出したら罰が当たるわ」 中学生と大の大人がそろって迷子というのもおかしな話だ。 「それより不二子さん、夜ご飯なんだけど」 「貯蓄倉庫に缶詰があるわ」 やっぱり。 がっくりとうなだれて、兵部は不二子の腕をとると彼女に小声で伝えた。 「お兄さんたちが、食材さえあれば作ってくれるって言ってるよ」 「あら本当?じゃあ任せましょ」 「ええええ。いいの?だってお客さんだよ?」 「何言ってるのよ、招待した覚えはないわ」 「確かに」 後ろから声がして顔を上げると、長身のふたりがお盆を手に立っていた。 皆本は苦笑を浮かべて子供たちをテーブルへと促す。 「泊めてもらうんだし、そのくらいのことはさせてくれ」 な、と振り向く相手は真木だ。 彼が果たして食事の支度などするのかどうか分からないが、何となく器用そうだと思いながら問いかけるように見ると、意外にも真木はあっさりうなずく。 「芋の煮っ転がし好きですよね?」 突然、そんなことを丁寧に聞かれた兵部は目を丸くしたが、こくんとうなずいた。 「なんで知ってるの?」 「さあ……なんででしょうね」 子供の兵部京介を見て何となく懐かしい気分になるのは、きっと古い写真を目にしたことがあるからだ。 真木は薫たちと夕食の献立についてにこにこしながら会話をしている兵部を眺めながら、味のしない紅茶を口に含む。 そしてふと思った。 もしこのままずっとこの流れにそっていけばいずれ、話だけ聞いた惨劇を目にすることになるのだろうか、と。 PR |
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