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過去に戻ったわけではないので、この後兵部少年らがどのような行動を起こすのか、また真木や本物の兵部がとった行動でそんな流れになるのか、さっぱり分からない。
ただこの状況下において真木だけが一番現実的なアクションがとれることになる。 「それで、どうしますか」 「そうだな、とりあえず、上の階に行こうかな」 「二階へですか?」 「お腹すいたのかい?」 「いえ……。そういえば何も感じませんね」 目の前にごちそうが並べられれば、何のためらいもなく口にするのだろうか。 「夢のお約束事として一度食事をとってみる?口にする直前で目が覚めるかも」 「俺だけ目が覚めても仕方ないでしょう。現実世界に戻るのなら、少佐も一緒に」 堂々と居間を出て廊下を歩き、エントランスから階段をのぼっていく兵部の腕を掴んだ。触れていないとひとりでどこかへ行ってしまいそうで怖い。 それがまるで子供っぽかったのか、兵部は一度振り向くと微笑んだ。 「大丈夫、どこにも行かないさ。戻るときは一緒に、だろ」 「はい」 もしこのまま永遠に夢の世界から抜け出せなくても、兵部と一緒であればかまわない、と真木は本気で思った。 「こらこら。ネガティブだなおまえ」 「夢の中でも心が読めるんですね」 「ここにいる僕と君は現実と変わらないからね」 理解できるような、できないような。 だが難しいことは放っておけばいい。どうせ夢の中は矛盾だらけのご都合世界だ。 「この階に少佐が昔使っていた部屋が?」 「うん。ちょうど真ん中にね。ちなみに不二子さんの部屋は一番奥だよ」 のぞいてみる?と問われて、真木は憮然とした表情で首を横に振った。 たんにからかっただけらしい兵部は、そのまま何も言わずにかつて使用していた部屋を開けた。 「懐かしいな、この匂い」 「匂い、ですか?俺には分かりませんが」 くんくんと鼻を鳴らしてみたが、特に何の匂いもしない。 「埃っぽい匂いがするけど。分からない?」 言いながらずかずかと中へ入り、部屋の中央でぐるりと辺りを見渡した。 臙脂色の分厚いカーテンはそれだけで値の張ったものだと分かる。 窓の下にはベッド、扉から右側の壁に沿って書棚とクローゼットが奇麗にはめこまれ、対面には学習机が配置されていた。子供の部屋にしては奇麗すぎる。机の上も数冊の辞書が詰まれているだけで鉛筆が転がっている様子もない。 「奇麗なもんだよね」 真木の胸中を読んだように兵部が言った。 「良い子だったんだよね僕」 「それは……」 蕾見男爵へ対する遠慮からですか、と聞こうとして、さすがに無礼だと言葉を飲み込んだ。 それには気付かなかったように、兵部は書棚の方へ歩いていく。 ぎっしりと詰み込まれている本は子供用の読み物と、きっと以前の部屋の主が置きっぱなしにしたのだろう洋書とが半々だった。 一角には本ではなくごちゃごちゃとした小物が置かれている。 「奇麗ですね、これ」 触っていいか分からずに、真木はそっと指をさした。 およそ子供部屋には似つかわしくない、かなり高価そうな小物入れだ。偽物ではない宝石で彩られており、触れるのも怖い。 「オルゴールだね。貰いもの」 「これオルゴールなんですか」 「うん」 短くうなずいて、すぐに視線をそらした。 一瞬顔色が変わったのを敏感に察知して、真木は別の話題を探す。 きっと何か思い入れがあるのだろう。 (俺は知らないことが多すぎる) 知りたくないこともたくさんあるだろう。 彼のすべてを知りたいけれど、積極的に知ろうとする勇気はなかった。 少年時代の兵部を見ても幸運な体験だとは思わなかった。 「これは僕の推測なんだけど」 「はい」 「僕がここへ君たちを巻き込んでしまったのは、何か理由があると思うんだよね。探し物があるとか、やろうとしてできなかったことがあるとか、未練?みたいなやつ」 「やめてくださいよ未練なんて言い方」 「ごめん。でもそんな気がする。君たちがあんまり頼りになりそうにないから、自分できちゃったのかな」 怒るなよ、と手を振りながら、兵部は長身の部下を見上げた。 「1、探してほしいものがある。2、僕の代わりに何かして欲しいことがある。3、君たちに見せたいものがある。さてどれだ?」 「うーん……。なんでしょうね」 何かヒントはないだろうか。 ふたりは黙り込んだまま、腕を組んでうつむいた。 PR |
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