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ひととおり二階の部屋を調べて、真木はどこかぼんやりとしている兵部の腕を引いたまま階段をおりようとした。 気になることがあるのだろうが、それが何なのか思い出せず兵部はむっつりと黙り込んだままだ。 彼がそれを思い出すことで事態が進展すればいいのだが。 「ちょっと、待ってくれ」 階段を半分ほど降りたところで兵部が立ち止まった。 「どうしたんですか?」 「待って。なんかすごく気持ち悪い」 「え?」 振り返ると兵部は真っ青な顔色でうなだれ、真木に腕を掴まれたままずるずるとその場にしゃがみこんでしまった。 慌てて背中を抱き寄せて落ちないように支える。 「大丈夫ですか?どうしたんです」 「分からないけど……。だめだ、動けない」 「少佐……」 元気な時はすこぶる元気だが、たまに急に体調を崩すことが合って、それがこんな夢の中でも起きるのかと真木は慌てた。 ここでは自分以外彼を支えられる人物はいない。 紅葉も葉も、パンドラのメンバーは誰もいないのだ。懇意にしている医者も病院もない。 バベルのヤブ医者はいるが現在彼とは繋がらない。 どうすればいいのだろうか。 真木は兵部と同じくらい顔を青くした。 だが自分が動揺していることを、気分が悪いと言っている上司に悟られてはいけない。大丈夫、自分がついているからと、胸を張って言えたらどんなに安心だろうか。 「大丈夫、苦しいわけじゃないんだ。ただ、なんか……」 「少佐?」 「なんか、足が動かなくて吐き気がするんだよ」 階段の中途半端なところでふたりがうずくまっているその一方で、台所では一見平和だった。 客がくる、と子供の兵部は言うが、正確な時間は分からないらしい。 だがその客はよくこの別邸へ訪れるらしく家族同然なのだと言う。 玄関をノックして反応がなければ、きっと勝手口の方へまわってきて扉をたたくだろうと少年は言った。 「その、僕に似ているっていうお客さんはどういう人なんだい?」 まさか血縁者ではないだろう、と僅かな期待と不安と困惑を込めて尋ねると、賢木から手渡されたこんにゃくを切りながら兵部はあっさりと答えた。 「えっと、僕たち特殊部隊の、隊長さん。その人は能力者じゃない普通の人なんだけど、すごく優しいんだ」 「……へえ……」 では兵部の元上司ということになる。 「あれ」 ふいに背後に気配を感じて振り返ると、蒼ざめた顔を隠せない様子で薫が立っていた。 「薫。大丈夫か。どうしたんだ?」 「ご飯まだだよ」 もうちょっと待ってね、と兵部がにこりと笑うのに対して、薫はぎこちない笑みを浮かべようとしたが結局失敗した。 壁に手をついて自身を支えるようにしながら、彼女はあえぐ。 「その人って……」 「その人?隊長さんとやらのことか?」 一体どうしたんだよ、と賢木が心配しながら手をざっと洗って薫に歩み寄った。 熱が出てきたんじゃないのか、と額に手を当てて、そっと眉をひそめる。 「お姉ちゃんもこっそり見たいの?でも具合悪そうだよ。休んでた方がいいよ」 「あ……ううん。平気。見たく、ない」 「そう?」 邪魔してごめんね、と、薫はふらつく足取りで居間へ戻ろうとした。 「薫、何か用事があったんじゃないのかい?」 「あ、そうだった。ちょっと、変に思ったから」 「何を?」 皆本が首を傾げる。 「皆本みたいなこと言うんだな」 「僕?」 「おまえもさっき何か言ってただろ。変な感じがする、もやもやするって」 「そういえば」 薫ちゃんもそうなのか、と尋ねる賢木に、薫は小さくうなずいた。 「変なの。なにか忘れている気がして」 「何を?」 「私たち……。どうしてここにいるんだっけ?」 奇妙な問いかけに、兵部と皆本、賢木は互いに顔を見合わせた。 「どうしてって……。お姉ちゃんたちが迷子だから、ここへ来たんじゃないか」 僕よりずっと大人なのに、六人同時に迷子だなんておかしいな、と兵部が笑う。 「そう、だよね。六人同時に」 (あれ?) また皆本の脳裏の奥でもやっとした白い影がうごめく。 正体の分からない不気味さに一瞬ぞっとしたが、これ以上薫を不安がらせるわけにはいかない。 「ほら、戻ろう。それとも一度上の部屋で休むか?」 「うん……そうしようかな」 まだ食事の支度が整うまで時間がかかる。 薫は皆本に促されるようにして、ニ階へと続く階段へ向かった。 PR |
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