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「薫ちゃん、どうしたの?」
「大丈夫?」 ほっとするほど懐かしい感じのする声に顔を上げると、いつの間にか紫穂と葵が目の前に立っていた。 薫は涙が出そうになってすんと鼻をすする。 「顔色悪いわよ」 「ねえ、玄関にお客さんきてるの。聞こえる?ほら」 声がするでしょ、と玄関を振り向くいて耳をすませる。 「あれ・・・・?」 あれほどしつこくドアを叩いていた音が止んでいた。 「帰っちゃったのかな」 「勝手に私らが出るのはやめといた方がええんとちゃう?」 「そうね。それより薫ちゃん、上の階のお部屋で休んだ方がいいわ。ついていってあげる」 「う、うん……」 もとはと言えばそのはずだったのだ。 それが、階段をのぼろうとしたところであのふたりに会って。 「あ、そうだ!京介が」 「兵部少佐がどうかしたの?もうすぐご飯できるんじゃない?」 「そっちじゃない。私たちが知ってる本物の方。真木さんと一緒にいたの。具合悪そうで……」 「ふうん?あ、ちょうどいいところに」 怪訝な顔をする紫穂だったが、ふいに視線をずらして手をあげた。 「先生!」 「ん?どうした三人ともこんなところに集まって。薫ちゃん部屋で休んでるんじゃなかったのか?」 「先生、きて。ふたりも」 薫は皆本を呼ぶのは後回しにして、客がきたこともすぐに忘れて賢木の腕をつかんだ。 「おいおいどうしたよ」 「京介と真木さんが階段のところにいるの。よく分からないんだけど動けないみたい。とにかく来て」 「はあ?」 要領を得ない、という表情を浮かべる三人に、薫はそれ以上説明する言葉をもたず階段へと導いた。 踊り場にうずくまっているふたつの黒い影を見上げて、ほら、と目配せする。 「ね?」 「……なんであのふたりがここに?」 いやそもそも。 どうしてこういう状況に巻き込まれたのか、それを探っていたんじゃなかったっけ。 紫穂と葵はそのとき、この世界へ送り込まれたときの衝撃や不安がすっかり忘れ去られていたことに気付いた。 「私たち順能力高すぎよね」 「そういう問題かなあ」 何だか、不思議なことを不思議とも思わず受け入れてしまっている気がする。 「おい、どうしたんだ」 近づいてくる医者に、真木と兵部は同時に顔を上げて、珍しく驚いたように声を上げたのだった。 サラダのボウルと小皿を手にふたりが食堂へ行くと、そこには不二子がひとりだけぽつんと座っていた。 「あれ、紫穂と葵は一緒じゃないのかい?」 「ちょっと見てくるって出て行ったきりよ」 「不二子さん、これでテーブル拭いて」 「はいはい」 薫の具合が悪そうなのを心配したのだろう、と皆本は奇麗に磨かれたテーブルに皿をのせていった。 「全員席に着いてから味噌汁配った方がいいね」 「そうだね。あのお医者さんもまだ上かな」 とういことは、この不思議な空間へ迷い込んだ六人のうち皆本以外が全員二階にいる計算になる。 どうかしたら薫が落ち着くまでみんな降りてこないかな、と危惧しながら、皆本は再び台所へと向かった。 その途中で物音に気付いて足を止める。 「ん?」 振り向いて耳をすませる。 食堂からは、不二子さんも手伝ってよ、嫌よ、と言った微笑ましい姉弟のやりとりがかすかに聞こえてくるが、皆本が気付いたのはそれではない。 とんとんとん。 玄関の方から扉をノックする音。 「あ、もしかしてさっき言ってた……」 旧陸軍特殊超常能力部隊の、隊長。 自分に似ているとかいう。 「はいはい今出ますよー」 そして皆本は奇妙な行動に出ようとする。 彼は食堂にいる子供の兵部や不二子を呼ぼうとせず、当たり前のように自分が応対する気で玄関ホールへと向かうのだった。 まるで初めからそう決まっていたかのように、ごく自然な態度で皆本は廊下を歩く。 やけに薄暗い廊下は天井が高く、電球がひとつぱちりと音を立てて光った。 PR |
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