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【2025/04/21 01:16 】 |
I want to cry!
「組織に属しているからと言って、別に会費とってるわけでもないし首からカード提げてるわけでもないしね」
「カードですか」
「リボンでもいいけど」
「リボン」
羽根にするとまた違う団体になっちゃうね、とくすくす笑う養い親兼上司に、真木は胡乱な眼を向けた。
「でも一定のルールというのは必要だ。君がいつも新人に言い聞かせていることだよ。言ってごらん」
「マニュアルを作成しているわけではありませんが。そうですね、兵部少佐が絶対であるということ。我々パンドラは少佐が創設された少佐のための組織であるということくらいでしょうか。生活の細々したことは、そのつど教えるようにしていますが。理念としては・・・」
「あーもういいや」
いまさら何を尋ねるのか、と最近とれなくなってきた眉間の皺を深くして律義に答えてみたものの、兵部は聞いているのかいないのか、適当に相槌をうちながら、ふわふわ浮いたまま腕を組んだ。
「人にそれを言うということは君は実践しているわけだ」
「していませんか」
「してる、してる」
自分で聞いたくせにあしらうような返事に、真木はわずかに頬をひきつらせる。
わざと怒らせようとしているようにしか思えないが、この人の言動は常に自分を試すようにそうする癖がある。つまり、怒ったらその時点で負けなのだ。一度この人に反省という言葉を知っているか聞いてみたい。だが聞いてみたところで彼はたぶん、やっぱり適当な返事しかよこさないに決まっている。
『そういうの、しない主義なんだ』とかなんとか。
「それで、なにがおっしゃりたいのです」
「あれ、分からない?ダメだなあ。それじゃ僕の右腕は務まらないぜ?君は僕に絶対服従なんだろう?そんなこと命令した覚えはないけど」
「命令などされなくても、俺はあなたのために働くことが誇りですから」
真面目に言ったつもりだったが、きっちり三秒間停止した兵部はぷっと吹き出した。失礼にもほどがある。
「よく真顔でそんな恥ずかしいこと言えるよね」
「なっ、何なんですかさっきから!何かおっしゃりたいことがあるならはっきりそう言えばいいじゃないですか!」
ぷりぷり怒り始めた真木に兵部はけらけら笑いながら涙をぬぐった。
「そうだった。本題に入ろう」
「長い前振りですね」
精一杯嫌味を言ったつもりだったが、軽くスルーされてしまった。
人間八十年も生きていると都合の悪いことは聞こえなくなるらしい。ある意味うらやましい技とも言える。絶対真似したくない。
「君はこの間、せっかくみんなが開いてくれた僕の誕生日パーティで大騒ぎをやらかしてくれたね」
「すでに間違ってるんですが」
大騒ぎしたのは誰だ、と心の底から突っ込みたい。
だが訂正しようとした真木をさえぎり、兵部は一気にまくしたてた。
「君は全然打ち合わせどおりに動かなかったらしいじゃないか。紅葉も葉もパティもがっかりしていたよ。あとで見せてもらった進行表によるとあのあと君は全裸でリボンをぐるぐる巻いて僕の部屋で一晩明かす予定だったじゃないか」
「あのですね少佐、」
「僕としてもがっかりだ。そりゃパーティは楽しかったしみんなに感謝してるけど、真木、君の失態は降格の上減給ものだよ」
「給料をもらった覚えはありませんが」
完全歩合制の犯罪組織に、考課表も月給制も存在しないのである。
やったもん勝ち、ぶんどったもん勝ち、別に一戦闘員のままで良いのなら、招集命令が出ない限り、自分が生活するのに困らない程度に何かしら仕事をすればそれで良い。当然非戦闘員や子供たちの生活は完全に保障されているが、真木にしても他のメンバーにしても、自分の小遣いは自分で稼ぐのがルールである。もちろんそこに給料明細もボーナスも存在しない。組織拡大のために大きな仕事を請け負ったとしても、真木はその分け前を多く受け取ろうとしたことはない。
と、たらたら正論を頭の中で繰り広げてはみたものの、口にする前にやっぱりさえぎられた。
「だから罰をくれてやる」
「ええええ!?すでにあれが罰ゲームだったような気がしますが!?」
何故、組織のナンバーツーであり兵部の右腕というありがたい地位に立っているのにこんな仕打ちを受けなければいけないのか。
たまに、一日に三回程度だが、真木は考える。
メンバーの食事を作って、兵部の分を別に作りなおし、着替えを手伝い、彼の部屋の掃除をし、わがままに振り回され、無茶な命令に半泣きで答え、通常の仕事をこなし、組織としてのメンツを保つために様々な交渉ごとを指揮し、夜になれば半々の確率で寝ているところを襲われる。
泣きたい。
「泣けば?」
冷やかな声が頭上から降ってくる。
「泣きません。それで、罰って何です」
「うん、この間できなかったことを今やってほしいな」
「何です?」
「僕を全力で口説け」
悪魔のしっぽが見えた気がした。
「く・・・どく、ですか」
「そう。僕を感動させてみろ」
「来世の幸福のために善行をなせと」
「それは功徳。犯罪組織の一員が善行をなしてどうするよ」
「ですよね」
うなずいて、真木は考え込んでしまった。
いったいどうしろというのか。
そもそも自分はそう語彙が豊富な方ではないし、ましてや誰かに対して愛の告白などしたこともない。
それに近いものならば、さっき兵部に言ったような気がするのだが、彼はそれでは満足しないらしい。
「ほら早く。あ、言っておくけど好きですとか愛してますとかそういうのはなしな」
「だ、だめですか」
先手を打たれてしまった。
そろそろ日も沈みかけ、自分たちが浮いている空は紫色へと変化している。ビルの谷間に隠れようとしている太陽は不気味なほどオレンジ色に光っていて、禍々しささえ感じた。下界に目を向けると電柱のてっぺんには鴉が陣取って、巣へ帰れと雄たけびを上げている。
そうだ、早く帰って晩御飯の支度をしなければ。
「ええと・・・」
無意味な声を上げてからちらりと兵部を見ると、彼は腕を組んだまま微動だにせずこちらを見つめていた。
混乱する脳を必死でフル回転させながら真木は考える。
晩御飯、晩御飯。いや違うそうではない。
「あ!ええと、み・・・」
「・・・み?」
「みっ、味噌汁を毎日食べて下さい!」
「・・・・・・・・・・・・・・あ?」
低い声がして、冷たい風が吹くと同時に一気に体温が下がった気がした。
怖々と兵部の反応を伺うと、どうやら彼は座った目でこちらを睨んでいるようだ。
だめだったらしい。
「・・・・・・何それ?ねえ何だそれ?説明してくれないか」
「いえ、ですから・・・。言うじゃないですか、君の味噌汁を毎日飲みたい、て」
「言わないよ。ていうか何それ」
「ええと・・・」
何年か前に見たテレビドラマで、いちゃいちゃカップルがそんな会話をしていたのをおぼろげに覚えていたので実践してみたのだったが。
(・・・は!違う!あれはプロポーズだ!!)
がくっと兵部が姿勢を崩した。
慌てて支えようと腕を伸ばしたが、冷たく振り払われる。
「もういいや帰る。君に期待した僕が馬鹿だった」
「え!?ちょっと待って下さい!もう一度チャンスを」
「ばーかばーか。君はそこで頭冷やしてこいばーか」
悪態をついて、兵部はくるりと背を向けると、さっさと飛んで行ってしまった。
「待って下さい少佐!」
慌てて大声で呼びながら追いかける。
どうやら怒らせてしまったようだ、と真木は冷や汗をかきながら、ものすごいスピードで飛ぶ兵部を必死に追いかけた。
その差はぐんぐん開き、これ以上離れてしまえばどんなに叫んでも声が届かなくなるだろう。
「少佐!」
肺いっぱいに薄い空気をとりこんで叫んで、右腕を突き出す。
「ずっとそばにいて下さい!」
つい出てしまったせりふに、真木自身も驚いてしまった。
まるで小さな子供が駄々をこねているようで恥ずかしい。
顔を赤くしながら唇を噛みしめると、遠くにあった小さな体がどんどん大きくなるのが見えた。前方を飛ぶ兵部がスピードを落として、そのまま止まったのだ。
背を向けたままなので表情は分からない。
やっとの思いで追いついて、真木は何と声をかけるべきか悩んだ。
すでに太陽は完全に沈み、限りなく黒に近い濃紺に星たちの姿が見える。
これほど高い場所ならば、地上のネオンの光に惑わされる事なく月や星を見ることができる。手を伸ばせば届きそうなほどにそれは近い。
「あの、少佐」
どうしようか、と思いながら兵部の肩に触れられるほどに近いところへ移動すると、月明かりに照らされた詰襟からのぞく白い首がうっすら赤くなっているのに気づいた。
「ばっかじゃないのか」
「え」
兵部が小さく毒づいた。
だが、せりふと表情が合っていない。
(そんな顔で言われても)
つい彼の体を抱きしめたくなるのを堪えながら、真木はそっと彼の前方に回り込んだ。
「いつまでも、ガキみたいなこと言いやがって」
唇を尖らせて睨む彼の方がよっぽど子供っぽいではないか。
むっとしたようにそっぽ向いた敬愛するその人に笑いかけて、右手を取った。
「帰りましょう。夕食を作らないと」
何が食べたいですか、と尋ねると、こちらを見ようともしないまま兵部はぎゅっと手を握り返して、言った。
「味噌汁」
 
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【2011/10/25 21:18 】 | SS | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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