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【2025/04/21 00:53 】 |
逆の逆は逆
「Mでしょ。どう見てもMだって」
「えー。あんた真木ちゃんのどこを見てきたのよ。あれはどう考えてもS。しかもドのつくSに決まってるわ」
「甘いなあ。全然男心分かってない」
「女の勘に外れはないの!」
「勘かよ」
「……おまえら」
低いうなり声をあげながら、ようやく会話の途切れ目を狙って真木は割って入った。
本人のいる目の前で、SだのMだの議論しないでほしい。
いや、いなければいいというものでもない。
何しろここは誰もが自由に出入りする本拠地のリビングルームである。
さきほどから小さな子供たちも何人かやってきては遊んでいるし、コレミツも困った顔で必死に子供たちの相手をしてふたりの会話から遠ざけようとがんばっていた。
ちなみにマッスルは口出ししたそうにこちらをチラチラ見ながらも、賢明なことに子供の世話に余念がない。ああ見えて、彼は子供好きなのだ。
(子供たちが大鎌のマネを始めたらどうしよう)
それはともかく、真木がここへ入ってきたのを見ているにもかかわらず、ふたりの口論はヒートアップする一方だった。
「いい加減にしろ。なんで俺が変態なんだ」
「あ、真木ちゃんそれは偏見よ。SやMだから変態っていうわけじゃないわよ」
「そうだよ。その理屈でいくと俺らのボスはド変態じゃねえか。あ、合ってるか」
「こらこら」
真木は葉の暴言に、ふるふると震えながら炭素で構成した長い髪をのばして、葉の頭を引っぱたいた。
「いってぇ!何すんだよ真木さん!本当のことじゃん!」
「黙れ!少佐を侮辱するなっ」
「してねーよ。本当のこと言っただけだもん」
唇を尖らせて睨む葉に、再び攻撃をしかけようとした真木だったが。
「あれ、何してるのみんな?そんな大騒ぎして」
物音ひとつたてず、兵部が目の前に現れた。
いつもの学生服を着て、だがやはり暑いのか上着の前ボタンをはずしている。
両手をポケットに入れたまま、兵部はふわふわと真木と葉の間に降り立った。
葉が頭をさすりながら文句を言う。
「真木さんがいじめるー」
「んなっ」
とっさに抗議の声を上げようとして、だが一足早く兵部が葉の前にしゃがみこんでよしよしと頭を撫でた。
昔から、兵部はこの末っ子には甘い。
今でさえ同じ目線でじゃれあったり叱ったりしているが、それも結局は子供をあやしたりあしらっているようにしか見えず、葉の要領の良さには感服ものである。
決してうらやましいわけではない。
断じてそんなわけではない。
自分は長男であり、組織のナンバー2なのだ。
「あ、真木ちゃんが嫉妬してる」
バレバレだった。
「なにを言ってるんだ!少佐、葉があなたの……ええと」
陰口、というほど悪意があるわけではない。
だがさすがに、葉が兵部のことをド変態だと言ったので叱りました、とは言えない。
おそらく素直にそんなことを言ってしまえば、その怒りはこちらにも飛び火するのは目に見えている。
「どうせまた葉がいらない口を叩いたんだろう。いちいち怒るなよ真木」
いやどう考えても事実を知って怒り狂うのは兵部である。
真木はこっそり紅葉を見たが、彼女は知らんぷりで雑誌なんかめくっていた。
こういうとき、女性の切り替えの早さは尊敬に値する。
「で、喧嘩の原因はなに?」
いい加減大人になりなよ君たち、と説得力皆無な説教を大人になれない老人が言った。
「真木さんがSかMかで紅葉とディベートしてましたァ」
「……それだけ?」
都合の悪いことは隠すつもりらしい。
だが確かに間違ってはいないので、真木はむっつりと険悪な表情のまま黙ってうなずいた。
兵部がぷぷっと笑って、腕を組む。
「ふーむ。それは難しい問題だね」
「どこがですか!俺はSでもMでもありません!」
「そうかなあ。人は必ずどちらかの資質があるって言うよ。あ、ちなみに僕はどちらかと言えばMっ気があるかも」
「…………え?」
「…………え?」
「…………え?」
幹部三人が同時に声を上げた。
今聞き捨てならない発言を耳にしたような気がする。
ただひとり、紅葉だけはにんまりと笑って納得したように何度かうなずき、だがすぐに興味を失ったように再び雑誌に目を落とした。
「ええと、何言ってんの少佐?あんたどう考えてもサドじゃん?」
ああ、言ってしまった。
これは怒られるぞ、と真木は首をすくめたが、意外なことに兵部は目を丸くして、けたけたと笑いだした。
「いやいや。確かに興味のあるものをいじめるのは大好きだけどね、それってつまりいじめた相手が怒ったり反抗してくるのが楽しいのであって、怒られたり抵抗されて嬉しいってことはMなんじゃないかなあ?」
「う、うーん……」
確かに、究極のSはMである、とも言う。
が、それでは結局誰しもが両方の性質を持っている、という結論になりはしないだろうか。
などと真面目に考えだした真木を横目で見て、兵部は満面の笑みを浮かべた。
「真木はドSだよねえ」
「え!?」
葉が意外だと言わんばかりにぽかんとし、紅葉は無反応だった。
すでにこの論争から離脱しているようだ。
「なんで!?だって真木さんっすよ?少佐に毎日いじられて嬉しがってるじゃん。ドのつくMじゃん!?」
「おまえな……」
よくもまあ、ここまできっぱり言えるな、と据わった目で葉を睨む。
「いいや、真木は普段Mだと思わせておいてなかなか鬼畜だよ。なあ真木?」
「き、鬼畜……!?」
「おかげでいつも僕は大変で……」
「わーわーわー!少佐!そろそろおやつの時間です!冷蔵庫に梅酒ゼリ―がありますからあっちへ行きましょう!行きますよ!!」
にやにやする兵部の言葉を全力で遮って、真木は細い腕をつかみ、慌ててリビングから連れだした。
後ろで葉が何やら叫んでいるが、このさい無視を決め込む。
「こう見えて真木は欲望に忠実だよね?」
ふふ、と笑う兵部に、真木は勘弁して下さいと大きな犬のようにうなだれた。
やっぱりこの人は超ウルトラスーパースペクタル級ドSだった。

 
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【2011/10/25 21:21 】 | SS | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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