× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 |
![]() |
皆本がしっかりと照準を定め、ブラスターの引き金に指をかけた。 荒廃した街、崩れかけたビル。空を覆う黒煙、そしてひっきりなしに飛び交うヘリとサイレンの音。 遠くで爆発が起こり、熱風がふたりの頬を撫でて空気を焼いていく。 兵部は動かなかった。 いつものように、学生服のズボンのポケットに手を入れたまままっすぐに目の前の男を見つめる。迷いのない闇色の瞳はどこか穏やかだった。 「なぜだ」 喉の奥を振り絞るようにして皆本がうめく。 「なぜ、こんなことに」 「なぜ、だって?その答えを君はもう知っているはずだ」 「分からない。こんな未来は、間違っている」 ブラスターを持つ手が震える。 これでは上手く狙い通り撃てないだろう。 数え切れないほど練習で繰り返した工程はすっかり頭から抜け落ちてしまっている。 皆本は、これでは撃つためではなく彼の足止めをしたいがための、苦し紛れのカードにしか思えなかった。 引き金を引いた時、彼はそこにまだ立っているだろうか。 ふと、そんな気がした。 避けることもせずにそのまま落下していく彼の姿を思い描いて、唇を痛いほどかみしめる。 「予知は外れた。だが、当たっていることもある」 「戦争は起こったが君のせいではなかった。そういうことだな」 「どんな些細なきっかけだろうと、いつかは小さなその火種が起爆剤となる。導火線に一度火がつけばやがて燃え上がるのは時間の問題だろう。その小さなきっかけのひとつが僕であるなら、予知は外れていないことになる。僕が言っているのはそういうことではない」 ひどく遠まわしな言い方だった。 時間を稼いでいるのだろうかとも思ったが、その必要は彼にはないだろう。 むしろ時間が欲しいのはこちらの方だ。 いくらでも引き伸ばして、彼を救えるのならそれがいい。 しかし兵部は眩しそうに目を細めながら、肩をすくめて言った。 「外れたのは、こうして向かい合うのが薫と君ではなく僕と君になっていることだ。当たったのは大規模な戦争を回避できなかったということだね」 「兵部」 「さようなら皆本くん。僕の役目は終わった。さあ、その引き金を引くといい」 それで未来が救えると、そう君が思うのなら。 兵部がす、と右手を差し出す。 「楽しかったよ。ありがとう」 一度でも君と心を通い合わせることができて、とても嬉しかった。 そう告げながら笑みを浮かべ、かつて手を取って抱き合った遠い日々を思っては泣きそうになるのだった。 「うっ……だめだ、泣いちゃう」 「ちょっとパティ、これじゃバッドエンドじゃない!萌えはどこ行ったのさ」 黒巻が、一枚ずつ手渡された原稿用紙を放り出して近くにあった定規をぶんぶん振りまわした。 「私やっぱり小説を書く才能はないみたいです」 「いやそうじゃなくて」 確かに珍しいこともあるものだ、と黒巻は思ったが、反省するところが違う、と突っ込んだ。そもそもそんなことならここまで書き続ける必要もないだろう。つまり気づいた時には遅かった、というやつか。迷惑な話である。 「じゃあこれをプロットにして漫画描けば?」 「そんなことしていたらもう間に合いません!」 「じゃあとりあえずラストシーンまで考えなよ」 わざわざプリントアウトしたからと言われて読んだはいいが、途中で終わっているのがものすごく気持ち悪い。いったいどうしろと言うのだろうか。 「……あのさ」 とても居心地が悪そうに黙っていたカズラが、口を開いた。 ふたりは、ああそういえば居たんだっけ、とちょっぴり失礼なことを思いつつも顔を上げる。 カズラは読み終わった原稿をパティに返しながら、 「最初から漫画にして描き直す暇がないなら、この続きから漫画にすればいいんじゃない?」 「ラストシーンは?」 パティがじっとカズラを見る。 「えーっと……メガネが銃を放り捨てて、少佐に駆け寄ってぎゅってすればいいんじゃないかな」 「……!」 ぱちん、と黒巻が膨らませたガムが割れた。 パティは無表情のまま、じっと考え込む。 「ベタじゃない?」 「でも一番綺麗な終わり方だね」 うなずきながら黒巻が言った。 「成人指定入れるならその後エッチシーンが入るけど」 「ちょっ!」 パティが何でもないことのように言って、カズラはぱっと顔を赤らめた。 「でもそうすると新刊全部R18になっちゃいます」 「いいじゃん」 それがどうした、と言わんばかりに再びガムで風船を作る黒巻に、パティはそれもそうかと納得した顔をする。 ただひとりカズラはむっとしながら、反論した。 「それじゃ誰も読めないじゃない」 PR |
![]() |
![]() |
|
![]() |
トラックバックURL
|
![]() |