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おまえたちは戻れ、と、当然のように言われたときのあの胸の痛みは何だろう。
澪とカズラが不満そうに頬を膨らませながらも、すぐにけろりとしてサロンを出て行こうとするのを、カガリはひどく苛立った顔で見送った。 パティも少し遅れて彼女たちについていく。 彼女だけはほっとしたような表情をしていて、そういえばここ数日部屋にこもりっぱなしだったなと思い返す。何をしているのか詳しくは知らないが、パティにはパティなりに忙しくしているらしい。 カガリは、というと、それなりに学校へ行ったり小さな子供たちの面倒を見たりと、暇ではないが仕事をしているというわけでもない。 それが不満でたまらない。 ぐずぐずとなかなか部屋を出て行こうとしないカガリに、真木が眉をひそめた。 「どうした?何かあるのか」 「……いえ、そういうわけでは」 何か話題になるような、ちょっとした報告ごとはなかっただろうか。 少しでもこの場所にとどまろうとして脳をフル回転させるが、日常をただ学生らしく(犯罪者集団であるという世間的な目はともかくとして)過ごしている彼が組織の幹部に報告すべき重要なことなどあるわけがない。 「カガリ?」 怪訝そうに重ねて真木が問いかける。 早く出ていけ、と言外に告げられている気がして、カガリは肩を落とした。 自分が出ていけばあとはこのサロンに残るのは真木と兵部のふたりになる。 日中、チルドレンたちの監視を任されたカガリたちの他愛のない報告を聞いた後は、おそらく仕事の話にうつるのだろう。 自分には関係のない話だ。 悔しいのだろうか。まるで、役に立たない子供のように扱われることに。 「ふふ」 小さく笑う声が聞こえてはっと顔をあげた。 優しい色をたたえる闇色の瞳と視線がぶつかって、慌てたようにカガリが帽子に手をやる。 ぺこりと頭を下げて出て行こうときびすを返したカガリに、兵部が声をかけた。 「かまわない。やることがないならここにいなよ」 「え?」 「少佐?」 兵部はソファの上にゆったりと座り、ひじ掛けにもたれるように体を斜めにしながらじっとこちらを見つめている。 吸い込まれそうな目に、だがそらせずにカガリはじんわりと背中が熱くなるのを感じた。 畏怖と敬愛と、うまく表現できないもやもやとした感情がそこにはある。 カガリにとって兵部は神様のような存在だ。決して逆らうことはできないし、逆らおうとも思わない。彼の存在は絶対だしそうであってほしいと思う。 何の疑問もなくついていける人がいるのはなんと幸せなことだろうか。 彼の片腕として働く真木に対しても同じような思いを抱いているが、真木に対しては敬愛というよりも将来の自分を見ているようで、それが願望でもある。 「カガリもいつまでも女の子たちとばかり一緒にいるのは退屈だろう?」 「……ええ、まあ」 確かに、普段はカズラと行動をともにすることが多いが、その時間は成長するにつれて少しずつ短くなってきている。カズラは澪やパティと年頃の女子トークに花を咲かせるし、そうなると自分の存在は邪魔にしかならない。自然と葉や他の少年青年メンバーといるか、ひとりで黙々と勉強をこなすだけだ。 さみしいとは思わないが、まだ少しだけ違和感がある。 幼馴染みの男女はいつまでも一緒にはいられない。 「真木、例の仕事の件を」 「はい、しかし」 ちらりと真木がカガリを見る。 「いいよ。カガリにもわかるように説明してあげて。もしかしたら協力してもらうことになるかもしれない」 「えっ」 間の抜けた声をあげて兵部を見る。 真木も、驚いたようにファイリングされた書類から目を上げた。 「そう驚くことじゃないだろう?そろそろカガリたちにもきちんと仕事を任せる時期だろうし、真木だってひとりで抱えきれないくらいの仕事があるだろう?手が足りないっていつも言ってるじゃないか」 「そうですが、しかしカガリはまだ子供ですよ」 「子供じゃありません!」 思わず声を荒げてしまった。 かっと顔を赤らめてうつむく。 「そうだよね。今のは真木が悪い」 「……すみません」 「じゃ、ないだろ」 からかうような兵部の声音に、真木はカガリの方を向いて、改めて言った。 「すまん」 「い、いえ!そんな」 「カガリだってもう年頃の男の子だもんね。そうだなあ、今回の仕事はともかく、その次にやるつもりの要人警護の仕事はカガリにも手伝ってもらおうかな。メインに幹部連中、フォローにカガリ。それで行く」 な、真木、と同意を求めるような、それでいておそらく兵部の胸の内ではもう決定事項なのだろうことを告げる。 「わかりました。ではメンバーに組み入れます。いいな、カガリ」 「は、はい!」 ふたりから見つめられて、頬を紅潮させながら大げさなほどにうなずいた。 「頼りにしてるよ」 その言葉がたとえ社交辞令的なものであろうと。 嬉しくて嬉しくて、カガリは勢いよく頭を下げて退室のあいさつをすると、船の中を走りはじめた。 カズラに報告しよう。そうだ、きっとうらやましがるだろう。 澪たちではない、幹部のフォローは自分だけに任されたのだ! まずまっさきにカズラに言わないと、という思考自体が子供っぽい優越感だと気づかないうちは、まだまだ子供だな、と遠ざかっていく足音を聞きながら、兵部は小さく笑った。 PR |
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