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それはホワイトデーのプレゼントを買いにきたデパートでの出来事。
下着売り場でぼんやり佇んでいる皆本と、さてどうしようかと悩んでいる賢木の二人組をしばらく眺めていた兵部だったが、やがて飽きたようにあくびをして後ろにいる葉を振り返った。 手に抱えている袋にはなにやらスナック菓子が詰め込まれているようで、良く見るとさきほど一階のロビーで配っていた新商品の試作品のようだった。ホワイトチョコで包んだ小さなビスケットで、ホワイトデーのプレゼントにどうぞ、だそうだ。それもいいな、と考えながらもう少し見て回ろうとしていたところで奇妙な二人連れに出会ったのである。 「葉、他に見るところはあるかい?」 「んー?どうですかね、ちびたち用のお菓子はこれだけあればじゅうぶんだし、澪たちにはちょっと高価な焼き菓子の詰め合わせと細々したアクセ、えーっとあとは紅葉ねーさんか」 「紅葉なあ……。あの年頃の娘は何をもらったら嬉しいのかさっぱり分からないよ」 「なに、まだ買うのかよ」 呆れたように割って入るのは賢木だ。葉が下げているいくつもの紙袋を眺めてうわあ、と口を開けてみせる。 当たり前だ。パンドラにどれだけの人数の女性が在籍していると思っているのか。 「ていうかにーさんだってお返しのプレゼント大量に必要なんじゃねーの?締まりない下半身のせいで」 「ぷっ」 にやにやしながら言う葉の隣で、兵部がぷっと吹き出す。 「失礼なやつだなおまえら……。そんなこと言ってっとアドバイスやらねーぞ」 「なんだよアドバイスって?」 首を傾げる兵部に答える前に、賢木はなんだか遠い目をして思いを巡らせている親友の腕をひっぱった。 「皆本、もうそれはいいから」 「あ、ああ。うわあ!兵部!?」 「やあ」 軽く手をあげてにっこり微笑んで見せると、皆本は盛大に顔を引きつらせ、何か言いたげに賢木を見て、やがて疲れたように嘆息した。ここで逮捕劇を繰り広げる気はないらしい。というよりも何だか気が抜けている。 「いやこいつらもホワイトデーのプレゼント買いに来たんだってよ。そんであれだろ、紅葉ってあの、背の高いサングラスかけたねーちゃんだろ」 「そうだよ」 あの年頃の女の子は何が欲しいんだろう?と最も経験豊富だろう賢木を見上げると、彼は腕を組んで真面目な顔をした。 「趣味が分からんからな、普通は香水とか、ピアスとか、ネックレスとか」 「さっきアドバイスくれるって言ってなかった?なんだよその適当な返事は」 かすかに頬をふくらませて上目遣いで睨む。 「そもそもそういうの送るのって付き合ってる彼氏とかじゃねーの?身内にそういうのプレゼントするもんなのか?」 よく分からん、と葉は首を振った。長年共にいる姉のような存在だが、今まで彼女にそういう飾り物やらを贈ったことはない。たまにすれ違うといい匂いがするから香水を全くつけないというわけでもないだろうが、詳しくないので何を買えばいいのか分からない。それは兵部も同じだろう。まさか石鹸水をあげるわけにもいかないし。 「だからさ」 ひらひらと手を振りながら、賢木は後ろのフロアを振り向いて指をさす。 「ああいうのは?」 「……賢木」 再び、疲れたような皆本の重いためいき。 兵部と葉は同時に賢木が指示した方を見やって、顔を見合わせた。 「下着?」 「そうそう。あのねーちゃん割といいスタイルしてんじゃん。ブラとショーツとガーターの三点セットとかどうよ」 あれとかいいかも、とためらいもなく女性下着コーナーへと歩み寄って、マネキンの前でうなずく。赤い布にレースが縁取られたブラをまじまじと見て、値段を確認しひょえええ、などと驚いて笑った。 「たっけー。なんで女性ものの下着ってこうも高いんだろうなあ」 「知るかよ。ていうかそれは無理。却下」 「なんで」 これもいいぜ、ともう一対のマネキンを無理やり引き寄せて、豹柄の派手なブラをぴんと弾いた。非常に悪目立ちしている。売り場を見ていた店員や女性客らがこちらを見てひと睨みしていく。無理もないだろう、なぜならスーツを着た若いサラリーマンと見るからに軽薄そうな男とあまり興味なさそうな青年と学生服の集団が堂々と女性下着売り場で品定めしているのだ。明らかに不審者である。 「おい、もう行こう」 「なんだよ真っ先にここへ来たの皆本じゃん」 「だから違うって!通りかかっただけ!!」 急に恥ずかしくなったのか、皆本は小声で叫ぶという器用なことをしながら賢木の肩をこづいた。 「で、おまえらはどうすんの。俺はあのねーちゃんの趣味までは分からんし」 「そうじゃなくて。趣味の前にサイズが分からない」 「え?」 「なにが「え?」だよ。普通知らないだろ。それともこういうのって適当でいいわけ?」 「適当でいいわけないだろ……」 ぼそりと兵部が呟く。 「なんだサイズ知らんのか」 「知るわけないだろ!!あーもういい。君のアドバイスを期待する方が馬鹿だった」 やっぱりもう一度地下に降りて高級洋菓子を買おう、ときびすを返した兵部に、葉は走り寄りながら彼の腕を掴む。 「少佐が一緒に風呂入ろうって言えばいいんじゃね?」 「あ、なるほど」 たぶんおそらく、紅葉はにっこり笑ってOKするだろう。小さい頃から面倒を見てくれた外見美少年の中身おじいちゃんには隠すものなどなにもないのである。 うらやましい、という呟きが後ろから聞こえた気がしたが、ふたりは聞こえなかったふりをして、今夜は久々に四人でお風呂に入ろうか、とうなずきあう。 「いや、一緒に風呂に入らなくても、サイズ教えてって言った方が早いんじゃ」 皆本の呟きは甲高い声で店員を呼ぶ女性客の声に吹き飛ばされ、ざわめきとともにかき消されていったのだった。 PR |
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