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お茶でも飲もうとキッチンをのぞいた皆本は、異様な光景に足を止めた。 このクソ暑い季節にご丁寧にもダークスーツをきっちり着こみ(ただし夏服仕様)、長い黒髪は無造作に束ねている大柄な男が背中を丸めてなにやら必死に手を動かしている。 こちらに背を向けているため何をしているのか分からないが、その広い背中からは「邪魔すると殺す」とでも言うかのようなオーラが放出されており、声をかけようにもかけられない。 リビングからはチルドレンたちのはしゃぐ声に混じって、兵部と桃太郎の口喧嘩が聞こえてくる。 だがここは静かだ。そして空気は重い。 いつまでも突っ立っているわけにはいかないので、皆本はこっそり彼の横に立った。 腕まくりをしている真木の前には皿に乗った一切れのスイカ、そして彼の手にはスプーンが握られている。 ひどく真剣な表情で、すぐとなりに皆本がいるのにも気づかない様子だ。 彼の手元を注目していると、真木は掴んだスプーンでひたすらスイカをほじくっている。 すでにスイカは穴だらけで悲惨な形になっており、どう見てもおいしくなさそうだ。 「なあ・・・何をやってるんだ?」 いい加減たまらなく不思議に思った皆本が小さな声で尋ねる。 すると真木はびくりと肩を揺らすと、のろのろと目を上げて皆本を見た。 (うわあ・・・) ふだんから愛想のない仏頂面はさらに険しく、子供が見ると泣き出しそうな形相である。 殺気がないだけましだろうか。 真木はドン引きしている皆本を一瞥すると、すぐに作業を再開しながら、低い声で言った。 「見れば分かるだろう。種をとっている」 「・・・なんで」 「少佐のためだ」 「・・・・・・だからなんで」 「少佐が面倒がるからだ!」 くわっ、と目を見開いて皆本を凝視した後、真木は何か問題でも?と言った顔をした。 兵部京介がどこまでもわがままなのは、この男がどこまでも甘やかしているからではないだろうか。 そんな考えがよぎったが、皆本は首を振って、まあどうでもいいか、と冷蔵庫を開けた。 中にはありとあらゆる世界中の高級菓子が詰め込まれており、またタッパーがぎっしりと詰まっている。 そのひとつひとつにラベルがはられており、『冷奴(少佐の夜ご飯)』『ショートケーキ(少佐のおやつ)』『寿司の残り(真木の夜ご飯)』『たくあん(真木のおかず)』などとマジックで書かれている。 皆本は麦茶を取り出すのも忘れて無言で扉を閉めると、眼鏡の端からそっと涙をぬぐった。 がんばれ真木。超がんばれ。 たまには残り物以外のご飯を口にしろよ、と、黙々とスイカをほじっている広い背中に向けてエールを送った。 PR |
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