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「ぷれぜんとー?」
「うん」 ぴょん、と頭の上から身を乗り出して大きなくりくりした目を剥いた桃太郎に、澪はうなずいた。 頭が揺れてずるりと足を滑らせた桃太郎が慌てて体勢を整える。 「少佐にあげるの。だから買い物付き合ってくれない?」 「イイケド・・・。キョースケ、誕生日終ワッタゾ?」 「知ってるよ。そうじゃなくて、べっ、別に記念日じゃなくてもプレゼントあげたっていいじゃない!」 「フーン?」 体が傾ぐ。首を傾げたのか。 澪は桃太郎が肩に移るのを待ってから、アジトから出て街へと飛んで行った。 目指すは一軒の洋菓子店である。 澪はケーキが大好きだ。甘いものが嫌いな女の子はあまりいないだろう。 けれど、それをおおっぴらに言うのは何だか恥ずかしいと彼女は思っていた。 紅葉やカズラたちが食べたい!食べに行こう!と提案してくれれば、仕方なく付き合ってあげるんだからね!という顔もできるが(当然気付かれているが)、ひとりでどうしても食べたくなるときだってある。 けれどパンドラのメンバーたるもの、欲しいものは自分で調達するのが基本。誰かにねだることはできない。 否、ねだれば兵部や真木たちは嫌がらずに買ってきてくれるだろうが、それでは澪のプライドが許さない。 そこで、誰かにつつかれたわけでもないが、自分の中で「これはプレゼントなんだ」という言い訳をこしらえたのであった。 どうせ調達するなら兵部が喜ぶものがいい。 彼女はいつも彼が好んで真木に買いに行かせている店の前に降り立つと、ぐっと拳を握りしめて扉を開いた。 からんからんとベルが鳴って、待ち構えていたように店員のいらっしゃいませ攻撃に合う。 「うっ・・・何かすごい場違いな感じ」 「高級菓子店ダモンネ」 子供がひとりで買いに来るような場所ではない。 とはいえ、真木はいつもどんな顔で買いに来るのだろう、とふと思った。 甘い匂い漂う高級洋菓子店に、不精ひげを生やしたダークスーツの大柄な男がひとり。 非常にあやしい。 「何かお探しですか?お嬢様」 ひとりの女性店員が完璧な営業スマイルを浮かべながら近づいてくる。 何だろう、この威圧感は。 彼女は澪の肩の上に乗っている桃太郎を一瞥したが、すぐに何もなかったかのように視線をそらせた。 きっと接客マニュアルには「お客様の肩にげっ歯類が乗っていた場合は」などと書かれていないのだろう。 (お嬢様・・・) そんな扱いを受けたことは一度もないのだが。 ガラスの向こうに宝石のように整然と並ぶ色とりどりのケーキたちを見つめて、澪は少しだけパニックになった。どれを買えばいいのだろう。というか、早くここから脱出したい。 逡巡している澪を、店員は辛抱強く笑顔で待っている。 すると、店の奥で電話が鳴る音がした。店員が一瞬振り向く。 しばらくして、奥からもうひとり店員が出てくると、澪の方を向いてにこやかに言った。 「シュバルツバルダー・トルテを1ホールお届けで、りんごのベーニエとビーネンシュテッヒを三名分お持ち帰りでよろしいですね?」 「へ?」 「ン?」 思わず澪は、宙をぷかぷか浮いている桃太郎と目を合わせて声を上げた。 「いまご自宅からご連絡を頂きましたよ。お嬢様にお渡しするようにと」 すぐにご用意しますので、と訳のわからぬまま椅子に座って待つよう言われ、ぼんやりしたまま澪はそれに従った。 「ドウイウコトダロ?」 「分かんない・・・あ、メールだ」 いつの間にか受信していたらしいメールを開いて、澪は目を丸くした。 横から桃太郎がそれをのぞく。 『ベーニエとビーネンシュテッヒは澪と桃太郎と僕の分。トルテはみんなの分。よろしく 兵部』 「・・・少佐ぁぁぁ」 「ウワ、泣くナヨ・・・」 つい感動して涙目になった澪に、桃太郎は呆れてぺちぺちと額を叩いた。 三時のおやつが楽しみだ。 PR |
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