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長野県軽井沢市。
明治時代、カナダの宣教師がこの地を訪れた際、すばらしい自然に感動し、避暑地として別荘を建てたのが始まりとされている。 その後彼の友人らがこぞって別荘をたて、やがてホテルの営業も開始。 いまだに避暑地軽井沢の別荘で休暇を過ごす、というのは一種のステータスにもなっている。 さて、兵部京介率いるパンドラの一部のメンバーたちは、避暑のためではなく流しそうめん実行のためにこの軽井沢へとやってきた。 パンドラが世界中に所有するアジトのひとつがここにもある。 別荘が並ぶ場所から少し奥へと入った森の中、真っ白なペンションが突如として姿を現した。 大勢で訪れても快適に過ごせるように広めの作りとなっており、普段は情報収集を主として活動しているチームが管理している。 人の住まない家は荒れる、と兵部がいいはるので、常に四、五名のメンバーが駐在しているのである。 兵部がぶらりと訪れるときはペンションの管理人として、家事のすべてを取り仕切るのが彼らの仕事となるが、真木が一緒だと兵部は細かなことはすべて彼に任せてしまうのであまり出番はなかった。 ただし今回のように大勢子供たちがやってくるとなるとそれはもう大騒ぎである。 「うわああああ。すごい。ちっちゃいお城みたい!」 「少佐、森に虫を捕りに行ってもいい?図鑑を持ってきたんだよ」 はしゃく子供たちに笑みを返しながら、兵部は腰をかがめた。 「うん、好きに遊んでいいよ。ただしあんまり森の奥に行かないこと。あとひとりで行動しちゃだめだからね。それと近隣の住民と会ったら怪しまれないようにきちんと挨拶しろよ」 「はーい!」 比較的まともなことを言いつけて、走り出す子供たちを見送る。 コレミツとマッスル、それとカズラと澪がそれを追った。 「このまましばらく休暇を過ごそうか」 「流しそうめんだけじゃ勿体ないっすね」 葉が頭の後ろで腕を組みながらうなずいた。 子供たちも周囲を気にせずのびのびと遊べて嬉しいだろう。 「少佐、これでいいですか」 「うわっ?」 のっそり現れたのは、いつものスーツ姿ではなくラフなシャツとジーンズ姿の真木だった。 似合っているのか似合っていないのか微妙なところだ。 スーツ姿に慣れ切っているため、たまに彼がこういう格好をしていると非常に違和感がある。何を着ても眉間のしわがとれないのが原因のような気もする。 真木の肩にかつがれた五本の長い竹を見て、兵部はぷっと笑った。 「やけに立派なものを採ってきたな」 「これを、どうするの?」 兵部の後ろにくっついたまま、他の子たちとは一緒についていかなかった少女が真木を見上げて指をくわえた。 「短く切った竹を三本ひと組で、二セット用意する。上に載せる竹を割って設置する。あとは角度を調整して出来上がり」 簡潔に説明して、兵部は少女の頭を無意識のように撫でた。 「真木が全部やってくれるよ。君は遊んでおいで」 「少佐は?」 甘えたがりなのか、兵部から離れようとしない少女に、葉が歩み寄った。 「あいつらと川で遊ぶか?魚がたくさんいるぞ」 「うん!」 ほら、と雑に伸ばされた手をしっかり握りしめ、少女は笑った。 彼女を連れて、葉が森へ入って行った先発組を追いかける。 それを見送り、さっそくセッティング作業を始める真木をカガリが手伝った。 「少佐、私は中で食事の支度を手伝います」 「うん、よろしく」 おそらくそうめん以外にもちょっとしたパーティ用に料理を作っているだろう管理人チームを手伝うために、紅葉はペンションの中へ入って行った。 「少佐、危ないのでちょっと離れて下さい」 「うん」 物置から持ち出したのこぎりで真木が器用に竹を切って行く。 長さを測ったり紐で結んだりといった作業はカガリが担当しているらしい。 ふたりをぼんやりと見守りながら、夏もいいものだ、と柄にもなく兵部はちょっぴり感傷に浸っていた。 いずれカガリも真木を助ける右腕のような存在に成長するだろう。 次世代のメンバーが活躍するとき、はたして自分が生きているかは分からないが。 遠くから聞こえてくる子供たちの歓声に耳を澄ましながら、兵部は都会よりもずっと柔らかな太陽を見上げた。 PR |
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