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お願いがあるの、と、まだ年端もいかない少女に見上げられてつれなく振り払える男がいるだろうか。
否、ここは心を鬼にして「自分でやりなさい」と説教すべきかもしれない。 そう数秒で結論を出した真木だったが、彼の決意はあっさり打ち破られた。 「いいよ、言ってごらん」 「少佐!」 いつの間にか背後にテレポートしていたらしい兵部がにっこり笑って歩み寄る。 澪はぱぁぁ、と顔を輝かせて、真木をおしのけると兵部の腕にしがみついた。 「あのね、どうしても北海道に行きたいの」 「北海道?そりゃまた何で?」 首を傾げる兵部に澪は掴んだ腕をぶんぶん振りまわす。 「ちょ、少佐。あまり甘やかすのはどうかと」 「真木は黙ってろよ」 「真木さんは黙っててよ」 同時に言われて睨まれる。 結局子供にはどこまでも甘い兵部のせいで、澪だけではなくパンドラで保護している子供たちはどこか天真爛漫すぎるというか、思い立ったら即決、明後日の方へぶっ飛んでいってしまう子たちが多い気がする。 自分勝手とまでは言わないが、あれこれ世話が焼けるのは養い親同然で、真木の苦労は増えるばかりだ。 年長組が年少組の面倒を自然と見ているのはいいが、その教育にもいささか疑問が残る。せめて自分で自分の責任がとれるようになるまではきちんと社会生活におけるマナーというものを覚えて欲しいものだ、と、犯罪組織にあるまじき真面目さで真木は常に頭を悩ませているのであった。 「あのね、まりもっていうのが飼いたいの。あれって北海道に行かないとだめなんでしょ?コレミツ連れて行くから行ってきてもいい?」 「ああ・・・まりもね」 「どうして急に」 なんだか放置されているのが悲しくなって、真木が割って入った。 「テレビで見たの。もさっとしてて可愛いなあって思って。北海道の阿寒湖っていうところで生息しているんでしょ?だから」 脳内にその映像を思い浮かべて、澪がうっとりと天井を見上げた。 つられて兵部と真木も上を見上げたが、当然そこにまりもは浮かんではいない。 「残念だけど、阿寒湖のまりもは天然記念物だからとっちゃだめなんだよ」 「ええーっ?そうなの?ダメなの?ひとつだけでもダメなの?」 残念そうに、大きな目をうるうるさせながら今度は兵部の袖を引っ張り始めた。 「こら澪。わがまま言うな」 「そりゃまあこっそり盗ってくることは可能だけど」 「いけません!」 子供にそんなことを教えては、と言い放つ真木の髪がうねうねと伸び始めた。 「分かってるよ。自然は大事にしないとね。ノーマルはいくら死んでもいいけど天然記念物に罪はないからねえ」 炭素のうねりを邪険に振り払いながら、兵部は澪の頭を軽く撫でた。 「それに本物じゃなくても可愛いのは売っているよ。一緒に見に行こうか」 「本当?本物でも生きてるの?ちゃんと丸い?」 「もちろん」 「少佐、この後はミーティングをする予定では・・・」 慌てて真木が口を開くのと、ふたりの姿が消えるのはほぼ同時だった。 残留思念とともに、「やっといて」というそっけない声が漂う。 「・・・・・・・・・」 がっくり肩を落としながら、仕方なく真木は紅葉と葉を招集した部屋へと向かうことにした。 しばらくして兵部と一緒に戻ってきた澪が、可愛らしい小瓶に入った一センチほどのまりもを自慢げに見せながら、「それで、いつしゃべるの?」などと言い出したのは後日のことである。 PR |
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