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なんだか頭痛がする。
と、何の脈絡もなく言い出したので、心配してそっと額に手を触れようとすると、直前でばちんと振り払われた。 「なにするんだよ」 むっとして文句を言うと、兵部はす、と目を細めて不機嫌そうに鼻を鳴らす。 「気安く触るなよ」 「……いつも触ってる気がするんだけど」 ぼそりと呟くが、彼は耳に入っていないのか本当に具合が悪いのか、眉間にしわを寄せたままそっぽ向いた。 流れる景色は物珍しいものではない。 ただ、普段兵部は車には乗らないだろうから、退屈しているのかもしれない。 じっとしているのが嫌いな性格だから、疲れたのだろうか。 運転しているのは僕なのだが。 沈黙に耐えられなくなって、そっとラジオをつけた。 とたんに流れ出す、女性ボーカルの懐メロソング。 さよならなんて 言いたくなかった 好きだなんて 言いたくなかった らーらーらー。 だめだ、気まずい。何だこの空気の読めないラジオは。 いやラジオが空気読んだらそれは怖いだろうけれど。 この雰囲気で夏の太陽ソングなんて歌われても困るけれど。 失恋ソングかよ。 ちらりと隣りを見ても、銀色のふわふわした頭しか見えない。 少しだけ開けた窓から風が吹き込んで、僕の方へと流れる。 頬杖をついたままこちらを見ようともしない兵部に、かける言葉が見つからない。 いつだって僕はそうなのだ。 機嫌を損ねた恋人兼敵に声をかける方法とか、 喜ばせる方法とか、 そもそも恋人兼敵、というカテゴリはどのマニュアルにも載っていないからだ。 ノーマルに敵意のあるエスパーに心を開かせる話術なんて全く使えない。 そもそも僕はあまり、聡い方ではないのだ。よく鈍感って言われるし。 相手が兵部でなくても、例えば薫や葵や紫穂でさえ手こずるというのに。 お手上げだ。どうしよう。困ったな。 「あ、あのさ」 とりあえず、前を向いたまま声をかけてみる。 信号が点滅を始める。 軽くブレーキを踏んで、横断歩道の前で停止。 がくん、と小さく前につんのめった。 「頭痛いなら、家に帰るか?」 「帰れって?」 やっとこっちを見た、と思ったらやっぱり苛立ちを含んだ表情をしていて、けれど怒っているというより拗ねているようだ。唇を尖らせるその顔が子供っぽい。 「そうじゃなくて、一緒に家でのんびりしようかって話」 アジトに帰れ、というのは簡単だが、それでは僕が寂しいから。 そう言うと、兵部はあっけにとられた顔をして、やがて慌てたように目を泳がせた。 「まあ、君がどうしてもって言うなら」 「うん、じゃあそうしよう」 笑いかけると、またそっぽ向かれた。 「ラジオ、うるさいから消せよ」 「ん」 高らかに歌い続ける失恋ソングをサビの中途半端な部分でぶちっと切って、僕はどこかでUターンしないとな、と考えた。 気まずくなければ沈黙のままでもかまわないのだ。 PR |
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