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ああなるほど、と、藤井の真剣な様子に兵部は納得して鷹揚にうなずくと、テーブルの上に両肘をついて指を絡め、顎を置いて身を乗り出した。
心持ち藤井が背筋を正す。 これはこのまま誤解させておくと後々面倒なことになるだろう。 「残念だけど先輩、何か勘違いをしているようですね」 「勘違い?」 何のこと、と首を傾げるしぐさが、外見の大人っぽさと反比例していて可愛らしかった。 高校三年ともなれば大人扱いされもおかしくはない年齢と外見だが、こういった素の顔はまだまだ少女と言っていい。 精いっぱい背伸びをしているうちに本当にぐんぐんと背丈が伸びて、少女から女性へと成長した紅葉を思い出して兵部は微笑ましさと同時に少しだけ寂しさを感じていた。 自分の外見年齢を止めたのは自分自身だけれど、こうやってどんどん子供たちに追い抜かれていくのは嬉しい反面いつまでも時代に取り残されていくということで、孤独であったりもする。 (それを望んだのだけれど) 「そう。僕はバベルの関係者ではない。どちらかというと逆かな」 「逆?どういうこと?あなたは超能力者で、並よりも高いレベルを持っているのでしょう?普通の人々ではありえない」 「うーん。まだまだ知名度が足りないのかな」 苦笑して、紅茶のカップに手を伸ばした。 「保健医の代理として赴任してきた皆本先生は確かにバベルの人間だけど僕は違うよ。彼と共謀して何かを探りにきたわけではない」 「あなたの転校はただの偶然だって言うの?」 「それはない」 彼女のような素人が不審に思うほどに、この潜入作戦は兵部の思いつきと行き当たりばったりでやっているのだ。 わずかな混乱を残しつつも藤井は、それでも、と身を乗り出し、兵部の手を握った。 「協力してほしいの」 「なぜ?」 間髪を入れずに尋ねる。 だが兵部の顔は穏やかで、藤井の反応を楽しんでいるかのようだった。 「何を、とは聞かないのね」 「消えた真島くんの親友を探したい、だろ?」 「そうよ」 あっさり肯定して、藤井は少し安心したように、ケーキの乗った皿を引き寄せた。 兵部がOKと言うのを信じ切っている態度だ。 だが、それもまた分かりやすくていい、と兵部は思った。 大人びた外見と人を信じる無垢な子供っぽさが同居した藤井さとこという少女に興味を引かれる。 「あの子が行方不明になったことに関して、私はバベルを疑っている。なぜなら私たち生徒会は、生徒会としての仕事ではなく秘密裏に情報を取り扱う情報屋をやっているから。仕事のためなら相手がエスパーでもノーマルでも関係ない。犯罪者だったこともあるけどそんなことはどうでもいいのよ」 「それでバベルに目をつけられているって?でもそのことと失踪した子がどう関係するのかな」 「関係しているかどうかは分からない。けれど私たちが違法行為をしていることにバベルが気付いて皆本とかいう人を監視のために潜り込ませたと思っている。もしかしたらあの子はバベルが秘密裏に拉致したかもしれない」 「んー・・・」 いまいち根拠が薄弱だが、まあいいだろう。 (皆本がここへ来たのは過去に起きたエスパー絡みの事件とこの学校に在籍している人間が関わっている可能性がある、というものだった。でもその根拠も曖昧。予知レベルも低い。外れかな?) だがパンドラに属する予知能力者も似たような報告を上げてきたのだ。 しかしその過去の事件と学校在籍者との因果関係と、真島の親友が失踪した理由、そして藤井の言う生徒会がバベルに目をつけられているという話は全部別物である。 兵部が調べる必要があるのは一番目。 気になるのは二番目。 藤井の依頼は二番目と三番目だ。 藤井は真島の親友の失踪と皆本の赴任が同じカテゴリにあると考えている。 (何か面倒なことになってきたな) ひとつひとつの事件はそれほど複雑な匂いはしない。 だが全てを同時に進行していくのは非常に面倒だった。 そもそも藤井はバベルの存在はどちらかと言えば敵側に置いている。 超能力支援研究局という看板を掲げていても、その存在に疑問を持っているエスパーは多い。もちろんノーマルもだ。 藤井は、自分たちがおおっぴらに言えない「やましいこと」を行っている自覚があるからこそ、バベルを警戒するのだろう。 しかしだからといって高校生を拉致するような集団だと勘違いして恐れる様は滑稽だった。 (ざまーみろ) くっくっと咽喉の奥で笑って、兵部はにこやかに言った。 「もう一度質問する。なぜ真島くんの親友のことをそんなに気にするんだい?同じ生徒会のメンバーだから?」 「それもあるけど」 無意識なのだろう、髪を触りながら、藤井は困ったように逡巡して、やがて兵部の目を見た。 「私の弟なの」 差し出されたファイルを見て皆本は唖然とした表情で真木を見上げた。 椅子をすすめたが彼は首を振るだけで、威圧感を出しながらも突っ立っている。 (怖いんですけど) やり合うつもりはない、と言ってはいるが、彼にとって自分は無力な獲物にすぎない。 兵部に忠実に従う限り、殺しはしないだろうが。 「これは」 「知っているはずだ。おまえたちバベルが捜査した七か月前の事件。これにこの学校の在籍者が関わっている可能性がある。おまえはそれを調べにきたのだろう」 違う、とは言えない口調だった。 皆本は冷や汗をかきながらも、なぜ彼がここへきたのかを考えていた。 兵部が生徒として潜りこんだのもこの事件のためか。 そうすると、予知課が弾きだした「確率の低い」案件が信憑性のあるものとしてレベルが上昇したことを意味している。 「どうしてこれを君たちが?いや、それよりどうして僕に教えるんだ?」 もっともな皆本の質問に、真木は無表情のまま答えた。 「俺の仕事の目的のためには捜査をする必要性を感じている」 「つまりてっとり早く僕らから情報を聞き出そうというわけか」 「協力と言っていい」 「それは君の独断か?兵部の指示か?」 「これから指示を仰ぐ」 少佐の命令は絶対だが、命令されなければ行動を起こせないほど部下は馬鹿ではない、と告げて皆本の返事を待つ。 兵部からの連絡はまだない。 PR |
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